『いつかきっと会いに行く。』
『先に行って待っていろ。』
『大丈夫。お前を一人にはしないよ。』
いつか、いつか、きっとの、曖昧な約束!
あぁ私は何度!そう言って彼らを見送ったことだろう!
【王銘の無い子供の墓場への懺悔録】
悲しい日には雨が降る。
私が悲しいから雨が降るのか、雨が降るから悲しいのか。
折り合いのつかない気持ちは、今にも落ちてきそうな曇天によく似合った。
私は人里離れた今は何もない山間で、一人と一つ、そこにいた。
傘も差さず湿った土を掘り返し、柔らかな手応え、その軽さに心がささくれ立つ。
人一人に穴一つ。
これから永遠に過ごす場所にしては、その場所は何とも安すぎた。
綺麗な花も生えてやしない。一度焼けこげて渇いてしまった土。見晴らしも良いとはいえない。
名前一つなく、土を盛ることもしてやれない。だからここは永遠に平らな何もない場所。
でもごめん。
お前が見つかる訳にはいけないから。
ここに死体が埋まっていると知られてはいけないから。
これが今の私の精一杯。
穴を掘るのもお前を埋めるのもお前を見送るのもお前を感じてやれるのも私一人。
お前は私以外いらないと言うかもしれないけれど。
私は私以外いないことがこの上無く寂しい。
それはお前の人生を私一人が支配してしまったことへの罪の意識か。
独り善がりな懺悔かも知れない。
自分のただ一つの目的のために、自分以外の人を犠牲にしてしまった事への。
私は死にたかった。
マオ、それが私のたった一つの願いだったんだよ。
道で絡んできた物乞いに刺された時も。
崖から落ちたお前を庇った時も。
お前に銃で撃たれた時も。
お前は私が死なないと安堵したけれど、できるなら私は死にたかったんだよ。
私を慕う、可愛いお前にそれを言ったことは無かったけれど。
だから今は動かないお前が少し羨ましいんだ。
私を慕った、可哀想なお前にそれを言えるはずはないけれど。
私は目的の為に、何も言わずにお前に王の力を手渡した。
お前がいつか王になってくれるように。
そしてこの世界から私を解き放ってくれるように。
でもお前には無理だった。だから捨てていった。でもお前は待っていた。
待てなんて一言も言わなかったのに。
そしてついてきたお前を、私は殺した。
決着をつけたなんて嘘だ。
自分のしたことの、責任をとった何て全部嘘。
だって私はお前に、生きたいかどうかさえ尋ねていない。
私はいつもお前の言葉を聞かなかった。
聞いたふりをして、自分の都合のいいように全てを廻す。
それなのにどうしてお前は、今も私の言葉を聞いてくれているのだろう。
――― Cの世界で待っていろ。
両手いっぱいの指を折り曲げて、心を殺しても言い続けた言葉。
最後、それを告げることだけが私のたったひとつの慣習だった。
自分に対する約束だった。お前が守る理由なんて、どこにもなかった。
でもお前は待っている。
なぁマオ。従順なお前。可愛い私の契約者。
雨が降ってきて、もうお前がよく見えない。
土に隠れてしまって、お前が見えなくなってしまった。
名前の無い墓。何もない土の下眠る、仮初めの王。未だ待つ小さな子供よ。
お前は王では無かったけれど、そんなお前も私は大好きだったよ。
だから今ここで言おう。
冷たい土の上で。しとやかな雨の中。これは決意だ。
「お前がいるその世界に私は私の王を捧げて逝こう。」
真の王が開いた扉を通り抜け、私はお前に会いに行く。
この世界への離縁状、かの世界への招待状を手に入れて。
お前に連なる幾つもの命へ会いに。
「マオ、私が悲しい言葉で見送るのは、お前で最後だ。」
それは姿のない唯一の墓標。
end