※巷で流行っているラブ○スぱろ。
※子供は耳としっぽがついている。大人になるととれる。
※つまりはそれだけの話。




「…これとりたい。」

「お前もう黙ってろ。」

スザクの呟きに黒い耳としっぽがぴくりと揺れた。






あまりに不条理だと、泣いた






「ルルーシュの毛づや良いよね。きれい。可愛い。ふわふわ。」

生徒会室である。スザクはルルーシュの耳としっぽをうっとりと(それ以外に形容しようの無いほど甘い表情である)眺めながら、目の前の書類には目もくれずに穏やかに微笑んでいた。ルルーシュはペンを持つ指に若干無駄な力を込めつつ、今度の予算への議題に神経を集中させる。目の前でリヴァルが苦笑しているがそれすら視界に入れたくない。必死に文字を眼で追い続ける。しかしスザクの指先が耳に近付けば無意識にぴくり、と耳は回転してしまう。しっぽも同様で素直に反応する。その反応を見てはスザクはまたうふふ、と気持ち悪い笑みを浮かべつんつんと黒くて柔らかなかたまりに指を近づけるのだ。触れれば怒られるから触れはしない。けれど近くに人の手を感知すれば自然と動いてしまうのが反射というもので。ルルーシュはその幸せそうな横っ面を渾身の力で殴りたい衝動に駆られる。構いたくもないのに、耳としっぽが反応しては構っているのと同じではないかとルルーシュは舌打ちした。

「スザク。止めろ。」

「これなくなっちゃうと勿体ないなぁ…。」

あぁ、とリヴァルの嘆きが聞こえる。ルルーシュの顔面の筋肉が僅かに引きつったのを見てリヴァルは椅子から転げ落ちたい衝動に駆られるがまともに進んでいない書面を投げ出せば後々の為にならない。むしろ自殺行為。スザクはそんな場の空気はとんと読もうという気配もなく尚も書類を放ってルルーシュ弄りに没頭していた。スザクは、ルルーシュの黒い耳としっぽが殊の外お気に入りなのだ。完璧な黒猫だね、と褒めそやして止まない。自分が普段猫に嫌われるものだから手近にいる極上の黒猫に構いたくて仕方ないらしい。そんなスザクの行動に不快感を募らせるのは常にルルーシュでその余波を受けるのは決まって生徒会メンバー。おきまりの光景である。しかして今はリヴァル一人ということもあり普段女子(ミレイは除く)がいる時は若干発揮される慎みも今は全開放出状態。危険な発言を繰り返すスザクにリヴァルは必死にこの場を退散する好機を探った。(しかしあるはずもなく絶望)

「無くなると勿体ないけど落としたいんだよね…でもやっぱり勿体ないかな。ルルーシュ僕のいないところで耳落とさないでね?」

そんな事になれば生徒会室は無事でいられるだろうか、とリヴァルは本気で思う。この男以外の前で耳を落とそうものなら(非常にアブノーマルであるからその考えもどうかと思うのだが)まず確実にその相手は葬り去られるしその怒りの余波を受けて自分たちも精神的な安寧を失いかねない。この際ルルーシュの身の安全を蚊帳の外にしておこう。

「さっさと耳を落としたお前に言われたくない。」

ルルーシュは機嫌悪くぷいっと視線を逸らした。それにならって黒いしっぽがスザクの手の甲をはしりと叩く。幸せそうに手の甲をさする友人に対し、リヴァルは無我の境地で立ち向かった。だが藍色のくせの強いしっぽは空中で波を描いてやがて地に墜ちる。スザクは本当に上機嫌にルルーシュに縋り付く一歩手前である。これほど上機嫌なら耳がぴんとたちしっぽがせわしなく右往左往していいのだが、生憎スザクの茶色の頭は大人しく稜線を描く。機嫌を現す猫耳は無かった。

「なに。ルルーシュ焼きもち?」

「お前一度死にたいか?」

ぽたぱたと動くしっぽが見えないのがいっそ不思議である。童顔で人当たりが良さそうで一見非常に純情そうに見えるこの青年は既に大人の階段を登り切っていた。最初は学校に入るに際し「名誉ブリタニア人で非童貞じゃ何かからかわれそうだね。」と疑似耳をつけることにしていたらしいが、不名誉なテレビ中継があった事を思いだし即刻止めたらしい。別にこの年になれば耳やしっぽがなくてもそう不思議ではない。だが学生であるうちは多少の抵抗が働くらしく疑似耳をつける者も多かった。その点スザクは清々しいほど堂々としていたと言える。ちなみにそんな親友に対しルルーシュは胸中複雑らしい。リヴァルはそれがスザクが望む嫉妬、という感情でないことは看破しているものの同情してかける言葉は見つからない。それも単に以前のスザクの一言に由来する。これもあんまりな現実である。

『だって初めてだとルルーシュ傷つけるかも知れないし。』

その場に居合わせた運の悪い自分を心底呪いたい。生徒会室に爽やかな挨拶で第一歩、そして悲劇。あの時のルルーシュのまさに絶句の表情には同情した方が良かったのかも知れないが、そんな精神的余裕がその時のリヴァルにあるはずもなくまた自身も綺麗に固まった。一人上機嫌に、にこにこと笑う転校生がこの時ほど恨めしかったことはない。つまり何か。お前はルルーシュとヤル。その目的のためだけに躊躇いもなく童貞を捨てたというのかっていうかそれは明らかに実験体だよな練習台だよなお前人の良い顔してどんだけ相手に対して失礼なんだ其処に座って世界のみなさんに土下座しろ、とは言えないリヴァルの弱さ。ルルーシュは遂に耳を掴まれスザクの腕の中におさめられていた。

「はなせスザク!!!」

「ルルーシュ、とらせて。」

耳元で低い声で囁くテクを駆使するスザクにリヴァルは素直に感心する。吐息が混じった声をうけてルルーシュのしっぽがぴん!と一直線に張り詰めた。既に真っ赤な面持ちでルルーシュは必死に抵抗を続ける。

「っ///お前だけは断る!!!」

「とりたい。」

「黙れ!!!」

神様、男友達がその親友の男友達に食われるのも時間の問題かも知れません。

不在証明