※十二国○パロです。
※スザクが主でルルーシュが従です。




(絶対に笑ってないな…。)

ルルーシュは足を組み膝当てに肩肘をついて傲岸不遜な態度で椅子に腰掛ける主を斜め後ろから見守りながらそんな感想を抱いていた。童顔原因の幼さが残る相貌には、おそらく笑みが刻まれているだろうが心が目が笑っていない、という予想をルルーシュは経験則から立てていた。そんな不誠実な微笑みを受けている人にルルーシュは視線を向ける。スザクの真正面には至極機嫌よさげに、こちらは真性に笑っている人がいる。王だけに許される紫を衣に取り入れたその人は、地位でいうならスザクと並び立つがそこには経験という埋めがたい差が存在する。同じ王であれ敬意を払うべき人を前に、スザクはあからさまに不機嫌な態度で臨んでいた。許されるなら今すぐスザクの後頭部をどつき倒してその態度を改めさせてやりたい気分である。

「今何と仰いました?」

また繰り返すのか、とルルーシュは半分以上呆れていた。同じ質問がこれで三度目である。そこまでしつこく確認して一体どうしようというのか。部屋の隅に立っていた近衛兵がハラハラとした面持ちで、部屋の中心へと視線を集めている。また斜め右前方にルルーシュと同じ姿勢で立っているクロヴィスは優雅な笑みを浮かべながら脂汗をかくという離れ業をやってのけていた。同じ麒麟であるクロヴィスに内心同情しつつ、ルルーシュはしつこい追求に笑み一つ崩さず受け答えする人の口元を見た。膝当てに置いていた腕を優美な仕草で煽げば、袖がひらりと舞いそれだけでその人の品性が匂い立つ。クロヴィスの主であり、類い希なる才知を誇る王シュナイゼルは同じ答えを、四度言い放った。

「ルルーシュを私の麒麟に貸してくれないかい?」

前代未聞、麒麟の賃貸を素で提案するシュナイゼルにルルーシュは驚愕を通り越して尊敬の念を抱く。王ひとりに一匹の麒麟。この世界の真理であり覆すことはできるはずもない事をあっさりと提案する。麒麟は国につき、その国のために王を選ぶ。故に王と麒麟は互いに動かしようがないのである。しかしシュナイゼルは「一定期間交換するぐらい害なんてないんじゃない?」と軽いノリ。スザクの眉がぴくりと動き、今度こそ笑みが消えた。まだ僅かに口元にその残骸が残っているがほぼ仮面は崩れ落ちたと言って良い。やはり王にも年季は必要だと確信した瞬間だった。

「全力でお断りします。」
「そう遠慮せずに。たまには気分を変えてみてはどうだい?ちゃんと補佐役にクロヴィスは渡すから。」
「遠慮します。気分の問題ではありませんので。っていうか気分を変えたいのは貴方でしょう。自分はクロヴィスはいりませんので。ルルーシュがいいです。」
「奇遇だな、私もルルーシュがいいんだ。」

そんな会話を後方で聞いているクロヴィスの顔色が白青紫と忙しく変わるのをルルーシュはもの凄く心配しながら見つめていた。勝手に貸し出しに駆り出されて挙げ句一方的にいらないとお断り、この案が通ろうと通らまいと王から八つ当たりを受けること必死なクロヴィスをルルーシュは倒れまいかと視線で見守り続ける。短い間とはいえ子供時代に交流のあった、兄といって差し支えないクロヴィスにこれ以上心労がかかることを望んではいない。ルルーシュの視線に漸く気付いたクロヴィスが、心配させまいと笑顔を纏い直し小さく親指を立てて合図を送ってきた。その合図に、ルルーシュも小さく応える。よし!の合図だが一体何がいいのか当人達にもよく分からない。そんな麒麟達の葛藤と焦燥をよそに、王は王らしく猛々しい程の面の皮の厚さで会話を続ける。

「大体王のくせに定期的に来てルルーシュに構い倒すの止めてくれませんか。ルルーシュは俺のものです。」
「麒麟が王のものだというのは賛成だが口説き文句でもないのに明言するのはいただけないね。」
「ルルーシュは既に髪の毛一本逃さず全身隅々まで俺のものなので今更口説く必要はありません。」
「体ばかりとは…、大切なのは心だよ。麒麟の本能に甘えていては本当に大切なものをとりのがす。君もいい加減ルルーシュがいなくても大丈夫なように王として自覚を持ち民を思い本分を全うしなさい。私がここに定期的に来れるのは、仕事はどんな小さな事も逃さず欠かさず綺麗に片づけるからだよ。」

ちっ、とかなり鋭い舌打ちが聞こえた。空耳だと思いたいがクロヴィスの頬が引きつったので空耳ではないのだろう。不敬罪に問える人もいないが王が王に舌打ち。ルルーシュは袖に扇子が締まってあったかどうかを確認した。これ以上スザクが暴挙に出れば秘かに鉄が仕込んである扇子でその後頭部を殴りつけ、強制的に眠りにつかせる意向である。自分の麒麟が後ろでかなり物騒な事を考えている事など露知らず、スザクは頂点に達しようとしている苛々を何とか押さえ込んでいるところだった。

隣国であり、三指に入る大国の王シュナイゼル。

その経験知性、品性などありとあらゆる面において敵うものなど何一つないスザクがこの世で最も忌々しい人物の内一人である。まだ施政に携わって十年にも満たない若造が太刀打ちできる相手でもなければ、スザクが尊敬をして頭を下げなければいけない人物の筆頭でもある。王になった時は隣国と言うこともあり色々世話をやいてもらい、今も外交で世話になりっぱなし。仕事の事で、シュナイゼルに言い返させるはずもない。それが恥知らずであることぐらいスザクは重々承知している。だが気にくわないのだ。気にくわないものはどうしたって仕方ない。色々受け付けない。

その最たる理由は、シュナイゼルがルルーシュを溺愛しているという点にある。

会うたびに頭撫で撫でにおさまらず頬にキス、抱きしめる傍に侍らす口説き紛いの話術で盛り上がる。しかもルルーシュは尊敬できる王というものに弱い。まんざらでもなく時折頬を染めて恥ずかしそうに俯いたりしている。王でなければ三度くびり殺し生まれてきた事を謝罪させるような目に遭わせ社会的に抹殺して地獄を見せてもまだ足りない。そんな程度に気にくわない。
個人的恨みここに極まれりという感じである。

「おいで、ルルーシュ。」

甘い声で甘い笑顔で、女性ならとろけそうな仕草で人の麒麟を呼びつける。ふらりと思わずシュナイゼルに寄っていきそうになったルルーシュの腕を、スザクは素早く掴むと腰を引き寄せ自分の膝の上に座らせた。すぐにバランスを崩したルルーシュの体重が、ふわりと降り立ちスザクは満面の笑みで微笑んだ。

「やれやれ。別にとって食おうという訳ではないのに。ルルーシュ、君も大変だね。こんな我が儘な王にあたって。」
「どの面下げてそんな事がいえるのか。さすが面の皮の厚い年寄りは言うことがひと味違いますね。」
「優しく賢い君が理不尽な目に遭っていないか、私は心配で心配で夜も眠れないよ。」
「くまひとつないそんなスッキリとした笑顔で何言ってるんですか貴方は。」

ルルーシュは話しかけられているのだから自分も会話に交じるべきか一秒悩んで止めた。不敬かも知れないがスザクが返事をしている以上、交ざらない方が賢明、後々お後が宜しい。一向にルルーシュと話させる気のないスザクに、シュナイゼルは困った顔をしてみせた。それが表向きであるということは残念ながらルルーシュにも分かる。シュナイゼルは早々感情のままに表情を浮かべたりはしない。考え込んで暫し沈黙が降り立ち、何か閃いたように手を打ち鳴らしたシュナイゼルに、スザクではないが嫌な予感を隠せなかった。

「今日はこちらに泊めて貰おう。」

思った通り爆弾を投下したシュナイゼルの後ろで、クロヴィスが声にならない悲鳴をあげて引きつけを起こした。









究極の矛盾、突き詰めれば正論

不在証明