※スザクが双子です。(これだけでカオス)
※兄が俺スザク(幼少仕様)で弟が僕スザク(猫かぶり仕様)です。
※ルルーシュと付き合っているのは兄の方。
※名前は兄が朱雀で弟がスザクと表記しますが戸籍上はどっちもスザク。
※全力でさらりと読み流してください。



「は?」

あやうく手に持っていたコーヒーカップを落としかけた。全く飾りっ気のない白一色のマグカップにどこまでも暗い褐色の液体が似合わぬ白い湯気を立てている。インスタントだから風合いはないに等しいそれを二つ、両手にもち今まさに絨毯に膝をつこうとした時にそれは起こった。今何と?と聞き返すこともできずに口をぽっかりと開けて正面を見ると口の端を吊り上げ意地悪く笑った人物がベッドに腰掛けていた。片足をベッドにのせもう片方の足をだらりと端から放り出している。茶色い癖っ家も翡翠に近い緑の瞳も安っぽい上下一式の部屋着も何もかも自分と同じだったが醸し出される雰囲気だけは何処までも異質だった。

「明日ルルの家に泊まるから。」

いつまで経っても固まったままの自分の左手から強引にカップを奪い取るとその人物はずずっと音をたててコーヒーを飲んだ。猫舌でも何でもない彼は難なく熱いコーヒーを飲む。気紛れにちらりと自分の方を一瞥しては未だ呆けた片割れに馬鹿にしたような表情を向ける。俺の言った意味が分からなかったか?と言いたげだが冗談ではない。言葉の意味など理解できすぎる。大体今の会話は日本語で行われている。細かいニュアンスなど、幾ら常日頃空気が読めないと詰られるスザクにだって分かる。つまりそれは…。

「えーっと。」
「お前待ってるといつまでも会話が進まないなぁ。要するにルルを抱くんだよ。」

まさか抱くの意味まで説明しないといけないの?と聞かれて慌ててぶんぶんと首を振る。その振動でコーヒーの水面がゆらゆら揺れて危うく零れかけたのを苦い表情で見た片割れに、スザクは机の上にカップを放棄して詰め寄った。ゆっくりとした速度でコーヒーを飲み続ける彼の瞳に、動揺の二文字はない。

「えっやっ、そ///っていつ!!?」
「?」
「だからいつからそういう・・・っ!!?」
「お前が居ない間に。キスしたり押し倒したり触ったり。」

それは僕がいる時もやってるけどね!と突っ込みたい気持ちを重々抑えつつスザクは地に伏した。がくりと頭をもたげ何の面白みもない床を見つめる。なんて事だなんて事だ、と繰り返しても状況が変わるはずもなくスザクは動揺を鎮めつつ事態を整理する事にした。しかしそれがさして功をそうしないことなど想像に難くない。つまりは結局動揺も露わに自分の片割れ、枢木朱雀に掴みかかったのだ。全く同じ色の瞳が全く違う感情をのせては合わさる。独りで住むにはそれなりに、二人で住むには狭い部屋の一室で全く同じ造形をした人物が二人。見ようによっては異常な状況で攻防を繰り広げていた。

「ルルーシュは男だよっ!!?」
「お前って本当に今更だよなぁ。っつーかそれなら俺がルルに触ってる時止めろよ。」
「止めただろ!?止めたよね!?何回も!何回も!!その度に君が」
「俺の勝手だろ。」

涙目のスザクと微妙に興味なさげに視線をそらす朱雀。

「ほら!すぐそうやって俺の勝手俺の勝手っていつも迷惑被るの僕なんだよ!?分かってないだろ!!そういえば最近学校行ったら何か視線が生暖かいっていうかピンク色って言うかつまりはいつもと違ってまた君が何かしでかしたのかなと思ってたらやっぱりしたのか!!?したんだね!!?」
「教室で抱きついた。ついでに牽制で軽くキスした。」
「///ルルーシュは男だよっ!!?」
「だからどうした。俺は『ルルーシュ』を愛してる。」
「っ////」

鋭い双眸で睨み付けられ、朱雀の服を掴んで手の力が軽く緩んだ。それを見計らってぱしりと手をはね除けられ、スザクは不安定な体制のまま後ろに倒れ込んだ。へたり腰をついて見上げればさっきと寸分違わぬ視線を受け止めてスザクは顔を歪ませた。それは泣き顔に近い表情で、意識なくスザクは瞼と顔を降ろした。涙がこぼれるわけでもないけれどただ自分と同じ顔を静止できなかった。そこにある表情が、どこまでも真摯で真っ直ぐで誤魔化しのない純粋な感情であると分かってしまったから。だから自分から何か言う事なんてできはしなかった。

「君の…好きにすればいいだろ。」

全身の力を抜いて冷たい床に背中を横たえる。目を見られたくなくて両腕で覆い隠せば視界が黒くなった。端から入る人工の光さえ眩しくてぎゅっと力を込めて顔を擦る。

「お前って本当に馬鹿だよな。」
「その台詞そっくりそのまま返すよ。いっつもルルーシュに言われてるくせに。」
「お前も言われてるだろ。」

その通りだと返すのも何となく癪で体制を変えた。ベッドに座る朱雀を見ないですむように、ぼんやりと部屋の入り口へ目線をやる。耳からは朱雀がコーヒーを飲む音が聞こえた。何処までも自分勝手で横暴なヤツ、と悪態をつけば見計らったように背中を蹴られた。足の裏でぐいっと押しやられる、その雑な仕草に声に出して文句を言えば、今度は何も返っては来なかった。多分またさっきと同じように意地悪く笑っていることだけは確かだった。

「ルルーシュを愛してるんだ。」

数十秒後にぽつりと呟かれた言葉。何故か耳を塞ぎたくなったけれど、力の抜けきった腕は思うように動かず床の上で役立たずにも転がっていた。その声の響きを、スザクは唯一無二の兄弟であるが故に知る。知りすぎて、顔が真っ赤になった。

「(なんて声出すんだよ・・・///)」


その晩は自分と同じ顔の人間がルルーシュを抱く様が延々と再生され続けスザクは名前も付けられない真っ赤な感情を抱え込んだ。寝不足になったのは、言うまでもなかった。






花一輪に一人の貴方