※【籠から出た鳥】の続きっぽい。



「…なんでいるの?」
「それはこっちの台詞。」

普段散々空気が読めない読めない、と言われる自分だが遂にタイミングまで読めなくなってしまったか。勢いよく部屋に飛び込んでみたのはいいものの目の前に広がる光景に本気で頭を抱える。どう好意的に解釈しても自分は今ここにいて許される存在ではない。直球で言うならお邪魔虫。人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死んでしまえ、なんて懐かしい日本の名句が思い浮かぶ。この場合蹴られて死ぬのは僕か。そんな事を考えている間に朱雀が見事なハイキックを決めてきた。勿論僕はそれを両腕で受け止めるわけだが。

「出て行け。」
「正直にありがとう。僕から一言言わせて貰えばさっさと軍に行ってくれるかな?ロイドさんの目を盗んでこそこそ抜け出すの止めてくれる?」
「堂々と学校をサボってるヤツに言われたくない。」
「それは勿論ルルーシュが風邪で倒れたって聞いたから。大体学校にしろ軍にしろ君がサボって後始末するの僕なんだよ?」
「俺じゃないからどうでもいいし第一後始末してくれとは頼んでない。お前ももうちょっと肩の力抜いて生きていかないと過労で倒れるぞ?」
「その程度で倒れるような柔な体じゃないよ。」
「それじゃあ何にも問題ないよな。」
「お前ら二人とも出て行け。」

キックを受け止めた状態のまま、入り口で口論を繰り広げる兄弟二人に何とも冷たいルルーシュの声が飛んでくる。零度をこしてマイナス50度。人が生きられるギリギリの温度もヒートアップしすぎた二人の間には心地良いモノにさえ映る。しかし体制を崩さずベッドの方に視線をやれば想像を絶する冷たい目でスザク達を見つめるルルーシュがいて、二人は渋々武装を解いた。周りが見えないほど言い合いをする二人を止めるのは七年前から必ずルルーシュと決まっていた。ルルーシュにとっては良い迷惑だがそれでも彼以外止められるモノがいないのが現状だ。離れると最早興味がなくなったのか朱雀はまた元通りルルーシュの傍に寄っていく。言われたとおりに出て行くことはせず、スザクもまたその後ろをついていった。

「…二人揃っているの、久しぶりに見たな。」

毎日うんざりするほどお互いの顔を見ている二人は一瞬だけ顔を見合わせてから苦々しい笑みを溢した。額に濡れタオルをあてたルルーシュは思ったよりはっきりと意識を保っていた。相変わらず白い首筋は熱に染まっている様子もなく、上下する胸も正常な動きを続けている。不審に思って首筋に手を当てて熱を測ろうとしたスザクの手首を、椅子に座ってルルーシュを見守っていた朱雀が掴む。過剰に込められた力に思わず顔が歪んだ。

「痛いんだけど。」
「触るな。」
「熱はかろうとしただけでそんなこと言われと流石に腹が立つよ?」
「熱はない。だから計る必要なし。風邪じゃなくて、単なる疲労だよ。」

疲労?と首を傾げれば応えの代わりにルルーシュが朱雀を睨み付けた。分かってるよ、と返す朱雀。目の前で以心伝心を繰り広げられてスザクは胸がざわりと波立つのを感じたが、それを納める術もなく口を開く機会も無くした。その間も二人は何やら口喧嘩らしきものを繰り広げていた。

「お前のせいだからな。」
「反省してるって。」
「その如何にも反省してますなポーズが逆に誠実さを欠くんだ。神妙な態度で応対しろ!」
「一々細かいなールルは。大丈夫だって。本当に反省してるから。」
「反省は次に活かされてこそ意味があるんだ。お前そんな事言いながら次に活きた試しがないだろ。」
「仕方ないだろ、ルルが可愛いのが悪い。」
「はっ///なっ、何を言うんだお前は!」

真っ赤になって可愛いなぁルルは、と言いながら調子よくルルーシュに抱きつく朱雀。嫌々しながらやはり顔の赤いルルーシュはとても心底拒否しているようには見えない。それはどうみても痴話喧嘩だった。痴話喧嘩にしか、見えない。しかも会話の内容はいくら鈍いと言われているスザクでも分かるほどあからさまだ。昨晩朱雀が帰ってこなかったことを踏まえると冷静に判断を下したくはないが、何があったのかは分かる。それだけでも悶々とするのに完全に忘れられている。ここで一発朱雀の後頭部に正拳を入れればすっきりするだろうか。いや、流石にそれは理不尽か。

「ルル、大丈夫。今度は優しくするから。」
「お前の優しいの基準は平均と大分ずれてるから信用なんてできるわけないだろ!」
「人と同じ事に意味なんてないだろ。俺なりの優しさに意味があるんだよ。」
「俺は人並みの優しさをもとめ、ぁあっく!?」

突然触りたい衝動が沸き起こったのかルルーシュの腰にまとわりつく朱雀。胸元に顔を埋めて、気持ちよさそうに瞼を閉じている。強攻に慌てたルルーシュが濡れタオルをぽとりと落とした。

「なんでそんな弱いかなぁ、腰触られるの。」
「はなせっ//止めろ!やっ、こら朱雀!」
「良い匂い〜。」

訂正、やっぱり一発入れた方がすっきりする。スザクは一端自分の中でケリを付けると右手に持っていた鞄を一回軽く振り回した。反動をつけて、本日の役目を果たせなかった教科書達の重みを手にしっかりと焼き付ける。

そんなわけでクラブハウスに渇いた音が一発響き渡った。






安らかに眠れと誰が謳う