突然だが生徒会室。今日は珍しくも、珍奇と言って差し支えないがメンバーが全員揃っていた。全揃い。残念ながら景品は出ない上に生徒会としては不届きすぎるがそれにしても珍しい。もっぱら抜けるのは病弱カレンに軍人スザクに部活シャーリーにさぼりルルーシュ…とつまりは全員何かしらの理由を持ちつつ不真面目に生徒会を運営していたのだ。今日は猫のアーサーもいる。揃いも揃えば進むのが例によって会長により溜められた書類の山ということで部屋の中は終始なごやかムード。書類は多いが人の手があれば問題なし。お茶なんてしながら和やかな空気を堪能する生徒会の面々の前に突如として
「おーい、ルルーシュ差し入れ!」
嵐が飛び込んできた。それも窓から。その時の生徒会の面々の顔は、筆舌に尽くしがたく文字とするにはあまりに衝撃的すぎるので控えさせて頂く。絶叫及び悲鳴が木霊したことだけ付け加えておこう。
神様が通った
突然だが生徒会のメンバーの中に、たったひとり日本人であり現在名誉ブリタニア人である枢木スザクという少年がいる。二年生でかの有名なルルーシュ・ランペルージに友達とお墨付きを貰うという何とも羨ましい境遇とその経歴の派手さから何かとお騒がせで目立つ存在の彼。本人は人好きのする笑顔と爽やかな性格、空気を読めないのはたまに傷だが兎に角そんなマイナス要素も消し去ってしまうぐらいの中々の好青年だった。突然だがそんな彼が、今目の前に二人いる。
「いや、わっりぃ悪い。」
全く反省した色のない枢木スザク2(二人目なので仮に2と番号をふっておく)は行儀悪くルルーシュの直ぐ隣で机の上に腰掛け笑顔を振りまいていた。その様をルルーシュは頭を抱えつつ、スザクは絶句して机に突っ伏しつつ、ミレイは興味津々に眺めつつリヴァル及びシャーリーはあんぐりと口を開け、カレンは臨戦態勢を整えつつニーナは若干怯えを隠せずアーサーは二割り増しで毛を逆立てて見つめていた。ナナリーは微笑ましげに笑っている。黄色いシャツにラフなズボンとごついブーツに青いコートを着た何処からどう見ても私服の枢木スザク2は遠慮もなく、未だに机とおでこを同化させている枢木スザク1の後頭部を乱暴に叩く。「何してんだお前?」と存外どうでもよさげに聞けばわなわなと打ち震えていた枢木スザク1ががばりと起きあがった。目は、僅かに涙目。普段大人しい相貌は怒りに染まっていた。
「それはこっちの台詞だろ!!?」
正しく皆の心の内を代弁したスザク1にスザク2はもの凄く胡散臭そうな視線を向ける。答えるのも面倒くさい、と顔にしっかり書いてある。その適当な対応の仕方にリヴァル以下の面々は僅かに体が強張るのを感じた。というのもスザク1の怒りがあまりに凄まじかったからである。こんな時に頼みの綱である副会長はぎこちない笑みを浮かべつつ沈黙していた。
「軍は一体どうしたんだよ!!?まさかまたサボったの!!?」
「主任が昼飯食って倒れたから早退させられたんだよ。サボってねーっつーの。人聞き悪い。それじゃあまるで俺がしょっちゅう軍抜け出してるみたいじゃねぇか。」
「まるでもなにもその通りなんだけどね!?」
「相変わらずカリカリしてんなー。あっ、ルルーシュこれやる。折角だから買い物して来たんだよ。新作プリンだって。」
「あっ、ありがとう…。」
右手に提げていたコンビニ袋からちょっと高級そうな香りのするプリンとスプーンを取り出し、ルルーシュの掌にのせてやるスザク2。素直に受け取って礼を述べたルルーシュの隣でスザク1が胸倉に今まさに掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出していた。「ルルーシュも何か言ってやってよ!!」と矛先を変えたスザク1に巻き込まれそうになって僅かに身を引きかけるルルーシュにそれを面白そうに見守りつつスザク1を茶化していらん台詞を言うスザク2。見ていて割と面白いが段々訳が分からなくなってきた。というか収拾がつかなくなってきそうな気配が漂ってきた。結局、この枢木スザクにしては妙に口も悪く態度もがさつで横柄で男らしい見た目だけは枢木スザクな人物は、何者だ?皆の疑問に終止符を打つべく、意外とこういう時は頼りになる生徒会長はぱんぱんと両手を叩いた。渇いた音が響き、ぴたりとスザク二人と巻き込まれルルーシュの攻防が止まる。
「はーい、はい。そこまで。そこの見た目は制服着てるスザク君とそっくりなスザク君!もどき!」
「もどきってなんだよ…。」
「細かい事は気にしない気にしない!いきなり現れて自己紹介もないってのは非道いんじゃない?みーんな混乱しちゃって、折角進んでた書類整理もとまっちゃうわ。」
大人の女性らしく茶目っ気たっぷりに微笑んで止めて見せたミレイに、リヴァルは素直に感心してうんうんと首を上下に振った。そんなリヴァルは軽く無視していたスザク2はバツが悪そうに後頭部をかき、それから笑って自己紹介した。ちなみに机の上、というかルルーシュの隣から退く気はないらしい。
「初めまして、じゃないんだけどな。俺の名前は枢木朱雀。そこにいる奴の、双子の兄だよ。基本的にスザクとは交代で生活してる。こいつが軍にいるときは俺が学校って具合にな。」
「なーるほど。でも学校へはちゃんと双子って言っておいてくれないと困るわ?貴方も学校来てるんでしょ?」
「悪い、ミレイ。戸籍が一つしかないし軍にも双子なんて登録してないから結局一人扱いで学校に行くことになったんだ。まぁぶっちゃけると金が一人分しかなかったからなんだけど。」
「正直に告白してくれてありがと。それにしてもそこにいるスザク君とは随分性格違うのねー。ほ〜んと、顔はそっくりなのに。初めてじゃないって事は今まで何度も私と話したことあったということかしら?」
「あるよ。」と笑って答えた朱雀に、漸く平静を取り戻したらしい他のメンバーが恐る恐るながら近付いてきた。近付いて二人見比べては、言葉もなく唸るしかない。本当に今まで交代で学校に来ていたのか、だとすると気付かないうちに二人の人間と話していたことになるのか。疑問はつきない。
「朱雀、いい加減に机から降りろよ。」
「だってルルーシュの隣はここしかないし。」
「そっちから椅子持ってきて座れ…。」
言われたとおりに椅子を持ってくると意外と大人しく席に着いた朱雀。弟とされたスザクの方はまだ何かいいたげだが取り敢えずは事の成り行きを見守ることに決めたらしい。沈黙して見守る。それにしても今は違う服装をしているから良いが、多分同じ服を着て並んだらきっとどっちがどっちか分からない。今まで見分けていたらしいルルーシュは、意外と偉大だ。漸く完全回復したリヴァルが、いつもの調子で朱雀に話しかけた。
「しっかしお前、普段は全然見分けつかないよな。どんだけ性格違うんだよ。」
「あれは一番最初に学校行ったのがスザクの方だったからだよ。後から辻褄合わせに猫被って生活するのすっげぇ苦しいの。俺の身にもなれってんだよな。」
肘で小突けばスザクが不快そうに眉を顰めた。普段不機嫌な感情が表に出ないだけに、これだけ感情を露わにするのはいっそ新鮮だ。そして新鮮さで言えば朱雀も負けていない。今まで親しくしていた友達がある日全く別の性格になってやって来たら誰だって驚くだろう。例えそれが双子で違う人間であっても。今まで双子だと知らなかったから尚のこと新鮮だ。まじまじと集中する視線を大して気にもとめず、スザクもそうだが結構図太い神経をしているらしい、朱雀は何か思いだしたようにぽんと手を叩いた。リヴァル、と名前を呼び、呼ばれた本人は間抜けな声を上げた。
「これ、前借りた奴だけど返しとく。」
「ん?あ?何か貸しとぅえええええーーーーーー!!!!!!」
凄まじく語尾が上がった雄叫びを上げてリヴァルが朱雀の腕にしがみついた。コンビニ袋から無造作に、リヴァルに借りたブツを取り出した朱雀にリヴァルは今にも死にそうな勢いで飛びつく。必死に朱雀が取り出したものを隠そうとしているが、反応が若干遅かった。その他のメンバーはナナリーを除いて全員見てしまった。何とも爆発的なボディのお姉さんがイヤらしく腰をくねられてポーズをとっている。すっぽんぽんで。所謂エロ本というヤツだった。冷たい視線が集中砲火。リヴァルの背中に。
「俺的にはイマイチだったなー、評価点40。」
「いや!もう!ホント何でもさせてもらいますから勘弁してください朱雀様ーーー!!!」
「じゃあ今度食堂でメシおごれ。」
叫び狂わんばかりに朱雀の手からエロ本を奪取し、撃沈したリヴァル。そして容赦のない朱雀。スザクはこの時初めて朱雀が舎弟を増やす手腕を目の当たりにした。何とも鮮やかである。ひいひいと情けなくわめき続けるリヴァルの背中の視線の温度が、その冷酷且つ残酷な朱雀の言葉に僅かに上昇した。本当に僅かにだが、生ぬるくなった視線を浴びたリヴァルはこそこそとルルーシュの影に隠れた。今はこの身を物陰に潜ませるぐらいしか芸がない。半泣きになったリヴァルは、ルルーシュにこっそりと尋ねた。
「なぁルルーシュ…。朱雀もやっぱり、空気読めないのか?」
「いや…朱雀は…あれで結構空気が読めるし敏感だ。ただ…」
「だた?」というルルーシュの言葉に耳をそばだてるリヴァル。いつの間にかにじり寄った他の生徒会メンバーは、その先を聞きのがさまいと聞き耳を立てていた。その傍で今度は朱雀とスザクが口論を繰り広げていた。騒がしいが、邪魔になるほどではない。一度言葉を飲み込んで意を決したように口を開いたルルーシュの、その言葉に聞いていた全員が迷走した。
「ただ…デリカシーに欠けるんだ。」
それって致命的じゃないのだろうかという誰かさんの言葉に、全員が同じタイミングで頷いた。