※色んな人の性別が逆転しているのでそういうのが苦手な方はご注意。
※色気の欠片もない単なるギャグです。






「私がもし男だったら、お前を嫁にしてやるのに。」

そうC.C.がぽつりと漏らした。相も変わらず巫山戯た台詞。
だがその時生憎徹夜三日目に突入していたルルーシュは突っ込む気力を持たなかった。

常人には理解しがたい回転速度を誇る頭脳はきちんと働いていたのは確かだ。

まず第一に男の自分が何故嫁なのか。
第二に異性が揃っているにもかかわらず何故C.C.が男になる必要があるのか。
第三に、『してやる』とは何事だ。
第四にそれが不眠ぎみの自分を強制労働させて挙げ句の台詞か、等々。
(ルルーシュは床に脱ぎ散らかされた自分の服を片付けていた。脱いだのはC.C.。)

ただやはりというか、体力の少ないルルーシュはこの時嫌みのために口を開く力さえ残ってはいなかった。面倒だったのだ。そう、繰り返される日常。今更過ぎる事象の全てが!


だがそれをこんなに後悔する日がくるなんて、思いも寄らなかった。






【そして全てが逆転する】






「これは一体どういう事か、説明して貰おうか?C.C.。」
「どうもこうも見たままだ。不思議なことには、もう慣れただろう?」
「ふざけるなーーーーー!!!!!」

朝十時。徹夜に別れを告げ珍しくも惰眠を貪ったルルーシュは、柄にもなく重い瞼を開き、そしてとんでもない現実と直面することになった。





目覚めて直ぐに、ルルーシュは常に隣にいるはずのC.C.がいないことに気づき部屋の中を見渡した。居ても鬱陶しいのに居ないと探してしまう自分に呆れさえ感じていたが、律儀に探してしまう自らの悲しい性。大いに嘆いていたところでソファーに座っているC.C.を発見した瞬間に、ルルーシュは自分の脳からあらゆる思考が吹っ飛ぶのを感じた。

待て。

思わず自分に待ったをかける。何にかけたのかは自分でも良く分からないが兎にも角にも今、この瞬間の、時間が止まってしまえば軽く現実逃避できるんじゃないかとルルーシュは思った。待て、待て、待つんだ俺。しかし何度言い聞かせても時は止まらない。夢の続きでもないらしく、目の前の光景はひどくクリアだ。いつも通り尊大な恰好でソファーに寝ころぶ相手は、琥珀色の瞳を猫のように面白そうに丸めている。口元に刻まれた笑みはともすれば冷たい印象を与える白い面に命を吹き込む。クローゼットから勝手に取り出したらしいルルーシュのシャツと細身のパンツに身を包み、朝の挨拶をしたC.C.はそこだけ取り出せば全くいつもと変わりなかった。

「おはよう、ルルーシュ。」

ただ、その声がいつもより若干、あくまでも若干低いことを除けば。
鮮やかな緑色のストレートヘアが大分短くなっているような気もするし、いつもはだぶついた衣装もすんなりと身を包んでいる気もするし、やけに身体の凹凸が少なくなっている気がするし全長がソファーと比較して長くなっている気もするが全ては気のせいだ。

今のC.C.が、男にしか見えないなんてそんなこと。

「気分はどうだ?体調は悪くないか?」

いやに気遣いを含んだ低い声。喋り方は普段と変わらないが声質が変わるだけでこれほど印象まで変わるものだろうか。元来はっきりとした喋り方と小気味良い口調が特徴なだけに、優しい言葉はざわりと耳を荒らす。

(なんてことはない。)

これは幻聴だ。気の紛れ。全て、気のせいだ。
まさか朝起きたらC.C.が男になっていて、しかも紅顔の美少年になっていて(元から美少女ではあったわけだが)普段はしないような優しい気遣いをみせたり。それが思いの外格好良くて思わず見惚れそうになったなどと。

断じて認める訳にはいかない。

ルルーシュは僅かに残された男としてのプライドに従って現実を全否定した。主に最後のやつを。
よって平静を装い中途半端な起き抜け状態から脱するべくシーツをまくり、ベッドから降りてひんやりとした床に素足でおりた。身を捩ると少しの違和感がまとわりついたが、寝過ぎたからだと片付けてルルーシュは素っ気なくC.C.に答えて見せた。

「大丈夫だ。何も問題はない。」

滑らかに躍り出た言葉に偽りはなかった。この時言葉を発するまで、問題は何もなかったのだ。だが話してみればいつもより若干、声が高い。恐る恐る胸元に手を這わして見れば、そこには無いはずの膨らみがしっかりとある。黙って視線を降ろし、そして黙って視線を上げれば輝くばかりの笑顔を称えたC.C.と眼があった。


気のせいと百億回呟けば、この現実も覚めるだろうか。





そして冒頭の叫びに戻る。

「あんまりだ、あんまりだ…っ!何で俺がこんな眼にあわなきゃいけないんだ!?俺が一体何をしたって言うんだ!!?そんなに俺の日頃の行いは悪かったか!!!」
「そう自虐的になるな。」
「一体、誰のせいだと思っているんだ!!!」

動揺も露わに声を震わせ掴みかかったルルーシュに対してC.C.は至極冷静だった。胸元のシャツを引き上げれば、いつもは自分より低いはずの目線から見下ろされる。その事実に涙目になりながら必死で「さっさと戻せ!」と喚くがC.C.は、もとより認めたくないのだがもの凄く可愛いものを見る眼でルルーシュを見下ろす。

「髪は長い方が好みだったんだが…まぁいい。しかし…ふぅん、胸は結構しっかりと出たな。」
「何を…っ、ほわぁっ!?」

好き勝手意し放題である。女性特有の脇から腰にかけてのまろやかな曲線を触れるか触れないかの微妙な力加減で撫であげ、そして柔らかな膨らみを揉む。元は男であるから胸を触られて怒りが湧き上がるという事はないが、流石にここまであからさまに触られると生理的な嫌悪感が生まれる。逃がさないとばかりに腰に廻された腕を解きつつ、布一枚隔てて肌をまさぐる掌の体温を力一杯引きはがす。だが上手く行く訳がない。C.C.は男、ルルーシュは女。身体だけだといっても、今はそうなのだ!

「可愛い抵抗だなルルーシュ。嗜虐心を掻き立てられるよ。」
「そんなモノかき立てられるな!それより俺に説明をしろ!何で朝起きたら俺が女になってお前が男になってるんだっ!!?百歩譲って控えめに見てもお前の仕業だろう…っ!」
「その通り、私のやったことだ。」
「だから何故こんな事をしたんだと!」
「言っただろう?もし私が男なら、お前を嫁にしてやると。」

そこに戻るのかっ!?自分でも記憶の底に沈みかけていた昨夜の一言を掘り返されてルルーシュは眼を白黒させた。予想外である。百%の悪質な冗談だと思っていたのに、まさか本気だったとは。脱力しかけるが再度身体を撫でる力強い男の腕の感触に引き戻されて額を冷や汗が伝う。何しろ見上げた瞳がひどく切実で甘い感情を含んでいたのだから、堪ったものではない。

本気だ。
奴は本気だ。全くもって何故か分からないが。

「俺は相手ぐらい自分で探す!お前の世話になって堪るかっ!」
「何を言う。お前なんぞ放っておいたらあれよあれよという間に組み敷かれて操よさらば、押しに押されて気付いたら男の腕の中に決まっているだろう。大切な共犯者のお前がアブノーマルな世界に取り込まれる前に真っ当な異性関係を築き授けてやろうというこの私の心遣いが分からないか?」
「分かるかー!!!!!」
「我が儘な奴だ。こんな美少年が相手なんだから、存分に楽しめ。」

大体元々男と女で丁度良いのに何故俺が女になってお前が男になる必要がある。そこからして違う意味でアブノーマルな世界だろう!というルルーシュの見事な正論は異様な現実を前に木っ端微塵にされる。いつの間にか抱き上がられたかと思うとまだ温もりの残るベッドにゆっくりと降ろされる。背中にスプリングの弾力を感じてルルーシュは自分がC.C.に押し倒されたことを理解した。折しもC.C.の言の通りの事態に陥っている。

「おいこらっ!ちょっと待て!!?」
「ふふっ、お前は本当に可愛いな。顔は美しかったから女になればさぞかし映えるだろうとは思っていたが予想以上だ。綺麗な肌と唇。触れたら、さぞかし気持ちが良いだろうな。」

詰るにはあまりに秀麗な顔を間近に近づけられ、耳元にそっと息を吹き込まれルルーシュはぞわりと沫だった。気付けば服の裾から手を差し込まれ、女にしては薄い腹を撫でられている。初めてのことにルルーシュは得も言われぬ感覚を味わった。少しのこそばゆさと、甘い疼き。腰が砕けそうになってルルーシュは本格的に不味いと感じた。

このままいけば確実に未知の感覚に食われる。

段々とC.C.の唇が近付いてくる。両手はいつの間にか頭上でまとめ上げられている。びくともしない。背中はベッドで、逃げられない。誰かに、助けを呼ばなければ自分は助からない。ひくりと動いた喉に精一杯の空気を吸い込み、そして叫ぼうと


「おはよう、ル、…ルルーシュ!!!」


したところでタイミング良く扉が開いた。聞き馴染みのある親友の声。ノックの音がなかったのは相変わらずだが今だけはそのゴーイングマイウェイなところに感謝しよう。突如現れた救出の徒に破顔して「スザク!」と叫んだルルーシュは、しかしてスザクの姿をみとめた瞬間綺麗に固まった。

「ルルーシュ!大丈夫!!?誰だお前、さっさとルルーシュを放せっ!!!」

目の前で繰り広げられている事態に憤怒の表情を見せるスザク。C.C.はそんな怒号もまるで素知らぬふりで受け流す。挑発的な笑みさえ浮かべ対峙すれば二人の間にはその身から立ち上る熱気とは裏腹な冷たい空気が流れる。一気に室内の温度が十度ほど下がったが、ルルーシュにはそんなことには構い立てする余裕がなかった。いみじくも今朝散々言い聞かせて無効だった言葉をリピートする。気のせい。これは気のせいだ。


スザクが女子制服を着ているだなんてそんな阿呆な。


「他人の情事を邪魔するとは無粋の極みだな。相変わらずデリカシーというものが全くない女だ、枢木スザク。」
「黙れっ!どう見てもルルーシュは嫌がっているだろう!相手の気持ちを無視するような、最低野郎にとやかく言われる筋合いはない!」

くせっ毛を逆立てて大きな緑の瞳をつり上げるスザクは別段特に普段と変わりない。服装だけなら今日は男女逆転祭りの日だったっけ、で済ませさえしただろう。二つの膨らみも、会長命令でパッドでも詰めている、で済ませただろう。だが悲しいかな。C.C.は今はっきりとスザクを女だと指摘した。しかもスザクも否定してない。まるで突っ込まれる気配がない。生粋の日本男児気質のスザクなら、女みたいだと言われれば侮辱と感じて反論するだろう。

つまりその反論がないということは、C.C.の言ったことが間違ってはいないと言うことだ。

頼むから否定してくれ、とルルーシュは神妙に祈った。

「…おい、C.C.。」
「なんだ?」

一触即発の雰囲気の中ルルーシュは冷静にC.C.に話しかけた。直ぐさまスザクを無視して向き直ったC.C.は実に満ち足りた顔をしている。面白い、とハッキリと顔に書いてある。

「なんでスザクまで女になっているんだ?」
「馬鹿を言え。お前が女になったらあのタダでさえ姦しい駄犬が大人しくしているはずないだろう。単なる予防策だ。」
「お前は予防策程度で人の性別まで変えるのか?違うだろ?どう考えてもその方が面白そうだからだろ?」

心底うんざりした冷たい目でルルーシュはC.C.を睨め付けたが案の定びくともしない。

「疑り深い目で人を見るな。掛け値無しの本気だぞ?まぁ半分ほど冗談だが。いいじゃないか、面白いことは良いことだ。ついでに他の奴の性別も色々変えておいたぞ。ナナリーは可愛い弟だ。お姉様と呼ばれてみろ、ルルーシュ。」
「ついでで世界をひっくり返すな!というか人の可愛い妹を弟にするんじゃない!ナナリーの花嫁姿とスザクの花婿姿を並んで見るという俺の一世一代の夢を壊すなーーー!!!!!」
「残念だがルルーシュ、その夢は一生叶わないよ。」

別に私が何かしなくてもな。ちらりと部屋の入り口へと視線をやれば相変わらず全身から殺気をたてて自分を睨み付ける枢木スザクがいた。女なら少しはましだろうと思ったが、それが全く功を奏していないことは見たら分かる。まぁこれだけ可愛い生き物を好きになるなと言う方が無理なのかも知れないと思いつつC.C.は手元も見ずにルルーシュを撫でた。運悪く胸に手が当たってしまったらしくルルーシュが素っ頓狂な悲鳴を上げる。その瞬間スザクの殺気が三倍に膨れ上がった。溜め息をつきつつ、C.C.は困惑する姫君を見下ろして笑いかけた。


「こんな世界も、結構いいものだぞ。」


ルルーシュ、とC.C.は愛しげに呟く。枢木スザクが掴みかかってきたら、この細い身体を抱き上げて窓から逃亡しようとC.C.は思った。二階から飛び降りるだけの運動神経も逃げ切るだけの足もある。男女逆転してみて良いことがどれくらいあるか、と実験してみたが。なるほどこれはいいかもしれない。いかに奴でも女の足で男の足に追いつけまい。C.C.は運動神経にはかなり自信があった。逃げ切ったら、今度こそ本気で口説いてみよう。


共犯者の幸せを願う権利ぐらい、あってもいいではないか。


つまりは嫁にしてやろうというのもかなり本気の発言で、自信も多分にあったのだ。
男顔負けの力強い性質と、共犯者としての距離を許された自分はかなり心の深いところまで触れられるし、秘密裏だが母親から応援ももらっているのだ。自惚れはない。単なる一事実として捉えたところによるとC.C.は自分がかなり美味しいポジションにいるのだと気付いたのだ。だからもし万が一の時は



このか弱い人を抱き上げて世界の果てまで逃亡しよう、と思った。




そして世界は逆転するのだ。









end