【get out】
「キスしたい?それともされたい?」
唐突な質問にルルーシュは危うくペンを落としかける。
「何ですか・・・その質問。」
「心理テスト、問1。」
あぁ・・・と思わず声が出たのは、ミレイの手によって開かれていたピンク色の冊子を見たから。『恋する乙女のための心理テスト』なんて、安っぽいタイトルのその本はそれなりに装丁も美しく、分厚く。きっと年頃の女の子なら思わず手に取ってしまうのであろうサイズ。間違ってもルルーシュは手に取らないが。
「興味ありません。」
「私は大いに興味がある。」
えっへん、と男子なら思わず目を奪われるサイズの胸を張るミレイ。そんな鼻高々に主張されても、全く心動かされません、とルルーシュは冷たく断る。が、断り切れるならこの生徒会は今日まで壮大な困難を乗り切ることは来なかっただろう。原因をつくるのも上手だが、それを処理させるのも上手い、それが生徒会長ミレイ・アッシュフォードである。全く興味を示さないルルーシュを尻目に、最初に口火を切ったのはやはりリヴァルであった。
「俺はしたい方〜。」
よしよし、と感心して腕を組むミレイの唇に、リヴァルの視線が注がれているのを片手間に見やりながらルルーシュは思わず溜め息をつく。それが会長の耳に届かなかったのはシャーリーが控えめながら、私はされたい方かな・・・と主張したからである。続いてニーナが、私もされる方がいいかな、と発言する。ミレイと長いつきあいである彼女はこのような事で一々反論したりしない。付き合いが長い分、おそらくルルーシュが知らない”もっと凄いミレイ・アッシュフォード”を見ているはずで。
「はぁ・・・。」
と溜め息が出る。やはり、というか必然的に残ってしまったのはカレンとルルーシュであった。スザクはというと運良く今日は学校に来ていない。しかしあいつならすぐに答えそうだな、と思うと何やら自分一人が大袈裟に損している気分になる。明日何か奢らせようか、などとルルーシュが理不尽なことを考えている横で早くもカレンが質問攻めにあっている。特に目を輝かせているのは、何故かシャーリーであった。
「ねぇねぇ!カレンはどっち?やっぱり・・・・・・・・されたい!!?」
シャーリーの発言の、数拍の間に一体どんな意味が込められていたかルルーシュは知るよしもない。が、カレンは痛いほど分かってしまったらしく過剰反応してシャーリーに反論する。
「どっちでもいいじゃない!!!///」
それには大いに同意したい。だがカレンが顔を真っ赤にして反論したことでシャーリーの中で何かのボルテージが急上昇したらしい。お願い!はっきりして!!!と切羽詰まった議論が交わされる。先に観念したのはカレンの方で、しぶしぶながら、してあげたい・・・方かな…と言葉を紡ぐ。病弱なお嬢様ならではの庇護愛に満ちた、なかなかの選択肢だったと思うのだがシャーリーは悪い方にしか取れないらしく、嫌に力なく椅子に腰を落とした。その瞬間、ミレイの目が光る。
「ルルちゃんは?」
やはり逃れられないのか…。
いつもなら適当に答えてかわすのだが、何故か上手い具合にどちらと選べない。したいのか、されたいのか、本気で悩んでいる自分さえいる。男ならしたい、と答えた方が無難だろう。しかしそれも何故か躊躇われて、躊躇う理由を頭の中でぐるぐると模索していると何故かこの場にいない友人の顔が頭に浮かんできて…
浮かんできて…・・・
「っ・・・////!!!」
どっちだっていいでしょう!!!と席立って声を張り上げようとした途端、生徒会室の扉が開かれる。そしてその場にいた全員の視線がそこに注がれた。立っていたのは枢木スザク、その人で。
「!!?・・お、…おはようございます…。」
スザクとしては生徒会室に入った途端に全員の視線を受けた事で、否応なく緊張を強いられた。その中でも一番気になったのはルルーシュの視線だったろう。喉に言葉が詰まったような顔をして、次の瞬間真っ赤になって視線をそらしてしまった。何かありましたと言っているようなものである。
「どうかしたんですか…?」
「それがね、ルルちゃんったら恥ずかしがって質問に答えてくれないのよ。ひどいと思わない?ちょおっと心理テストに協力してねvって言っただけなのに!」
いや!そんな可愛い前置き一切ない…!とスザク以外の生徒会の面々が心の中で突っ込みをいれる。それが届いたのか届いていないのか、ミレイはいそいそとスザクに心理テストの内容を説明し出す。この間ルルーシュは俯きどおしである。顔が上げられない。数言二人の間で言葉が交わされたらしく、スザクは得心したような顔をするとルルーシュの方を見た。
「あぁ。それならルルーシュは…」
静まりかえった生徒会室に、妙にとおるスザクの声。自分の事でもないのにスザクはそこに違和感を感じさせないほど自然に言い放った。
「ルルーシュはされたい方ですよ。」
絶句。
その自然なリアクションをとれたのはかろうじてルルーシュとリヴァル、カレンのみであった。何故かシャーリーとニーナはほんのり顔を赤らめているし、ミレイに至っては満面の微笑みである。きっと女神はこんな風に笑うのだろう、と思わせてくれるほどの威風堂々とした美しい微笑み。できるならこの場以外で拝みたかった、と思ったのはルルーシュだけではないであろう程に、危険な微笑みでもある。
「どうしてそう思うのかな〜?」
聞かないでください。
「?それはだって…」
お前も答えるな・・・!!!と内心思ったが案の定声になっていない。スザクも、輝かしいほど綺麗な笑顔でミレイの質問に応えた。
「僕がしたい方だから、ですよ。」
固まる空気。
その瞬間、ルルーシュは初めて神に誓った。
(明日、絶対に何か奢らさせてやる…///!!!)
その内容が異常にせこかったのは一重に動揺のせいである。
end