【彼と彼女とオマケの三角形】
日本茶がほんのりと湯気をたてている。今ではそれなりに手に入りにくくなった日本茶だが、こと黒の騎士団の本部であるここには常に常備されていた。それは日本人である我々の心情をおもんばかってのゼロの配慮である。素直に嬉しい、と感じつつカレンは自分が入れたお茶をテーブルに三つ、並べた。一つは自分の分、一つは最近仲間になった藤堂鏡志郎という名前だけならカレンも大いに聞き及んでいる人物、そして件のゼロである。ただし今は仮面をしていない状態でベッドに腰掛けている。服装も、ゼロのそれではなく普通の団員服だ。奇妙な三人は、しかしてある一点に置いて共通点を持っていた。それは、軍人ではない枢木スザクを知っているという点。カレンは単品の椅子に腰掛けて丁度人の位置が三角形を作るようにする。
「はぁ…。」
ゼロ、ルルーシュがおもむろに溜め息をついた。その顔には疲れが見えてカレンは心配になる。今日はある議題の為に集められたのだがその議題がルルーシュを苦しめている事は想像に難くない。その議題とは『ぶっちゃけ枢木スザクをどうしようか第二回作戦会議』である。何故第一回ではないかというと一回目は藤堂と二人っきりで行われたから、らしい。らしいというのはその内容をカレンは知らない。しかし何故か今回藤堂に誘われて参加する事になった。予習もかねて中身を聞いても藤堂は武士の一分で無駄に沈黙を守って答えない。これは、相当重々しい展開が待ち受けているに違いない、とカレンはごくりと喉をならした。そして気を静める為にお茶に手を出す。その時漸くルルーシュが口を開いた。
「さて、枢木スザクをどうやって闇に葬り去ろうか。」
ぶばー!!!ともの凄い勢いでカレンの口からお茶が飛び出た。この時凝視していたはずのルルーシュの方に吹かなかったのは流石と言えよう。さすが騎士の鏡。その代わり右隣にいた藤堂にぶっかかったがそんな事を気にしている場合ではない。カレンは椅子を蹴倒す勢いで身を乗り出した。
「ちょっ!っと!!!闇に葬り去るってもしかして始末するって事!!!?」
「そうだ。正しくは如何に墓まで一直線に送るか、という。」
「あんたら友達でしょーが!!!」
綺麗な角度で突っ込みを入れたカレンに対してルルーシュは「そんな日もあったな…。」と遙か遠くを見つめている。その視線は何処を向いているのか、限りなく遠い。遠すぎる。そんな悶々としたカレンの肩を藤堂が叩いた。振り向くとおしぼりで一生懸命顔を拭いている藤堂がおり、何か悟ったように瞼を閉じて首を横に振っている。ああなるほどこういう事か、とカレンは第一回の様子を瞬時に悟った。脳裏には激しく主張するルルーシュを必死に押さえ込む、意外と押しに弱い藤堂。駄目だ、こんな男に任せておけん!とカレンは侠気を発揮してルルーシュに向き直った。しかしルルーシュはつらつらと話を始める。
「一番良いのはお茶に毒を盛る方法だと思ったのだが‥案の定アイツ気づきやがった!!!前々から人外だと思っていたが嗅覚まで犬並だったとはな…。」
忌々しげに試し済みの作戦の結果報告をされてカレンはさっと青くなった。が、そこは鉄の精神で直ぐさま顔色を取り戻す。むしろその後の反応と対処方法を事細かに知りたいモノだ、と好奇心まで湧き上がる始末。その内にさらりとお茶に毒を盛る友達と、それを更にさらりと笑って受け流す友達のやりとりが見えた。この場合どちらが恐ろしいかはフィフティーフィフティーである。
「毒物が効かないとなると物理的な方法で試すしかない、と思ったがアイツに正面切って立ち向かえる奴はそうそういないから、呪術に手を出してみたんだが…。」
「例えばどんな?」
カレンの後ろで藤堂が「おい、聞くんじゃない!」と肩を叩いてきたがカレンはその手を「セクハラは止めてください。」の一言で払いのけた。何だか後ろで暗雲が立ち籠めてついでにブツブツと呟く声が聞こえるがそんな事はどうでもいい。乙女の好奇心は強い。
「基本の丑の刻参りは心臓に突き刺させたにもかかわらず腹痛と下痢で終わったし。」
「うんうん。」
「お百度参りで『枢木スザクが破滅しますように。』と頼ませたら財布落とすだけで終わるし。」
「ふむふむ。」
「名前と呪文を書いた紙を四つ辻に埋めさせてみても幻覚を見るぐらいで終わった。」
「ほうほう。」
どれも「〜させる。」で人にやらせているがそこは敢えて突っ込む事もない。呪いはやった本人に返ってくる可能性も高いのだから。ちなみにやらされた者の末路はこの場合もっとどうでもいい。そうやってここ最近の枢木スザクの様子と照らし合わせてカレンは妙に納得した。腹痛は重度で点滴うって二日ほど昏睡したと言っていたし、財布はちょうど全財産と印鑑と通帳が入っていてその後家に訳の分からない請求書がきたと言っていたし、最近同じ女の人をよく色んな所で見かけると言っていた。最後は個人的にかなり怖いがしかしどれも確かに死には程遠い。だが中々効果があるものだな、とカレンは熱心にメモした。今度試してみよう、誰にとは言わないが。
「キョウト六家の伝手でもっと強力な呪術者を紹介して貰おうかと思っている。」
「むしろ戦場に出てこれないようにした方が早いんじゃない。何かに溺れさすとかさ。お酒とか女とか麻薬とか。これなら十分破滅するし長期で効く。まぁいずれ紅蓮二式でぶっ飛ばすけどね。」
「こらこらこら。」
暴走する若者二人に藤堂がストップをかけるがこんな事で止まるはずもない。この時になって藤堂はカレンに頼んだ己の失敗をしった。これが若さか、と訳の分からない青臭い想いを感じながら藤堂はあの(?)季節にトリップする。尚もノンストップな主従二人組。
「アイツは酒豪だし女の扱いにも妙に手慣れてるし麻薬なんて…皮膚に針が刺さるのか?」
さすがに刺さるよ、と突っ込む人がいない。
「でも恋沙汰は結構いける予感がするのよね。本命なら簡単に誑かされてくれそう。むしろ溺れてくれそう。っていうか誘惑しちゃった方が早いんじゃない?」
「それは暗に俺にやれ、と言っているのか?」
本命が自分だという認識があるのかよ、と突っ込む人がいない。
「却下だ。俺の足腰がもたない。」
「そこは腕の見せ所って事で。首輪付けて部屋にくくりつけといたらどうかな。あいつ絶対Mだから喜ぶって。ベッドの上ではドSっぽいけど。」
「お前そろそろ自分の性別忘れてきてるだろう?まぁしかし首輪で軟禁はいいかもな。犬、か。」
「文字通り、ね。もしよければ『女王様と犬』セット贈ろうか?」
「できれば手渡しでくれないか。包装には細心の注意を払えよ。」
もちろん、とガッツのポーズを取ったカレンとルルーシュの間で熱い抱擁が交わされた。トントン拍子に話が進みここに『ぶっちゃけ枢木スザクをどうしようか第二回作戦会議』が無事閉廷された。
ちなみに藤堂は第三回には不参加となり、この作戦会議はルルーシュ及びカレンの間で長期にわたり開催される事となった。
その後首輪を付けて彷徨い歩く枢木スザクが学園内で見られた事と、黒の騎士団で玉城が頻繁にトイレに籠もる様になった事に事実関係があるかどうかは不明である。
end