【テンペスト】






廊下で彼の後ろ姿を追う。ふらりふらりと儚げな風情で、ゆっくりと廊下を歩いていく彼の。朝からぼんやりとして、時折苦しそうに息を吐き出していた彼の、その様子は普通の人なら些細な変化で見逃してしまうだろう。ただスザクだけは決して彼の変化を見逃さない自信があった。だから昼休み、賑やかな廊下を無音の空気を纏ったまま何処かへ消えていく彼の腕を掴んだのだ。そして振り返った彼の顔に、一瞬で目が釘付けになった。

伏せがちになった瞳がぼんやりと自分を見つめる、その一瞬で。

そして彼の体がゆっくりと傾いだ。


「ルルーシュ!!!」


返事がないまま、細い体は僕の腕の中に落ちた。





寝不足だろうか。明らかにおかしい顔色をしたルルーシュを、スザクは保健室につれていく事を躊躇った。苦しげに胸が上下して、呼吸も心なしかおかしかった。額にはじんわり汗が滲んでいて病気ではないか、と疑いたくなるぐらい。けれどこのまま保健室に連れて行けば絶対に保険医はルルーシュの体に触れる。ルルーシュは他人に体を触られる事が嫌いだった。本当に親しい人間でないとあからさまに嫌がる。そこに何らかの理由があるのだと、スザクは幼い頃から感じていた。だからスザクは彼をクラブハウスの自室へと連れて行く事にした。
その判断が彼の意志の尊重になるのかは、正直分からなかったけれど。


ルルーシュの体をベッドに横たえる。一度も進入を許された事のない彼の自室に無断で入った事に後ろめたさはあったけれど、ルルーシュをベッドに横たえ部屋を見渡すとそんな思いも掻き消えてしまった。

ルルーシュの匂いがする…。

嗅覚で感じる匂いではない。そこでは彼が存在している、実感が掴めた。相変わらず几帳面なのか一つの乱れもない綺麗な部屋に苦笑しながら、ふとベッドの端に置かれたぬいぐるみに笑みが漏れる。それだけ彼の部屋で異質で、でも可愛らしくて微笑ましい。靴、靴下を脱がせると足を真っ直ぐに置く。それからルルーシュを見下ろすと、いまだに荒い息で汗をかいていた。前髪を指でのけ、目元を覗く。

苦しいのかな?

僕は制服に手をかけた。金のボタンを全部外し終えてもまだ苦しげに息をするルルーシュを見て僕はさらにYシャツに手をかけた。全部脱がせてしまったら寒くなるからどうしようか、と考えながら白いボタンをぷちぷち外していく。その行為に、我知らず興奮する。

何やってるんだろう。

ルルーシュが苦しんでるから。頭では理解しているが服を脱がすという行為に顔が充血する気がした。平静だと自分に言い聞かせながら、最後までボタンを外す。するとルルーシュが寒さからか身を捩った。

「んっ…。」

額に皺が寄る。呻くような声をあげて、ルルーシュは腕を伸ばした。すると両脇からYシャツが引っ張られ、留め具を無くした中心が開く。思わずどきり、とした。素肌が現れるかと思った。さもなくばシャツ。けれど現れたのはそのどちらでもなく淡いクリーム色に近い色彩をしたベストだった。明らかに、下着には見えなかった。

なんだ?

疑問が浮かんだ。もう一度ルルーシュの顔を見る。するとまだ苦しそうにしている彼が目に入って原因がこのベストである事が知れた。真ん中に銀色のチャックがある。これを外せばきっと彼は正常に呼吸する事が出来るようになるのだろう。そう告げる頭に本能が静止を促した。中途半端にチャックにかけられた手が彷徨ってしまう。ベストは、必要のあるものには見えなかった。防弾チョッキではあるまいしおよそ日常生活では必要なさそうに見える。けれど彼は呼吸が苦しいのを抑えてもこれを身につけていた。そこには、理由があるのだろう。そして自分はこのベストを脱がす事でその理由を知る事になる。

細くて白い首…。

戸惑いがちに首に触れる。そのまま掌をおとしていくが、鎖骨に触れる前にベストに阻まれる。これを外せば自分は思いのままそこに触れる事ができるのだろう。ただ頭の何処かで警鐘が鳴る。これは、外しては、外しては許されないものだと。あぁけれど。視界には苦しそうに息をするルルーシュがいる。

ちゃんと息をさせないと。

それは免罪符だったのかも知れない。ルルーシュに関しては人一倍勘が働く事を自覚していたくせに、僕は苦しむ人を助ける手段をこうじる義務に半分、欲望を織り交ぜて行動に出た。そして多少早めに、一定の速度でチャックを開いた。


「あっ…。」


声が漏れた。それが驚きだけだったのか。ただ自分の下に広がった、ルルーシュの肢体に僕は息を呑んだ。今度こそ、顔が赤くなったのが自分でも良く分かった。

認識はまず、白い躯だった。
それから徐々に物事が整理されていく。
平らであるはずの場所には、はっきりとその存在を主張する二つの膨らみ。
そこから下に降る程滑らかな肌は引き締まり、外側のラインがくの字を画く。

それは間違いようもなく、女性の体だった。


「る・・るーしゅ?」

名前を呼んだ。混乱する頭をどうにか冷やして欲しくて目覚めるはずのない人の名前を。当然答えは返ってこなくて僕は必死で自分の頭を宥めようと、ルルーシュの体に触れていた。視覚だけで充分なはずなのに、何故か。ベストの隙間に手を差し込み、上からゆっくりと膨らみを確認していく。すると途中で指が引っかかる。邪魔だとばかりにベストを払いのけ、指で触れた箇所を舐める様に見るとそこには柔らかな赤みをのせた突起があった。指先でつつくと、確かに存在を主張し始めるそれ。

顔が熱い。

当たり前だ。何やってる。一旦手を離して、いつの間にか覆い被さっていた上体を起こす。けれどどうしても目が離せなくて、僕はずっとルルーシュの体を見つめていた。隠してしまわないといけない。ベストは閉じるとまた苦しむから駄目だけど、せめてYシャツを閉じてしまわないと。

いけないんだ。

どうすればいいのかは分かっているが動かない体。外れることなくルルーシュに注がれ続ける視線。何が体を動かしてくれないのか。ずっと男だと思っていた幼なじみが実は女だったのだ。事実としてはそれだけの話だ。だから人として取るべき行動は決まってる。事実を受け入れて、あぁでも彼は本当に女だったのだろうか。この期に及んでまだそんな事を考える頭は、僕の視線を下半身へと動かす。曝いていない制服の下。彼が男ならそこには自分と同じ物があるはずなのだ。そして女なら。

「何やってるんだ僕は・・・///」

答える人はいない。だから止める人もいなくて、右手はルルーシュの下半身へと伸びる。制服の上から触れるか触れないかの力加減で陰部をなぞり、指を奥へと滑らせていく。

そして最後に、確かめるために指先に力を込めた。


「あっ、んう・・っ!」


びくりと跳ねた体に、聞いた事もない色を含んだ声。


僕は細い体を押さえつけ、薄く開かれた唇を夢中で塞いでいた。









end