A children's story

ハッピーエンドとバッドエンドの定義。
【亡骸に口付け を】



カレンは泣いていた。膝をついて天を仰いで啼いていた。
どんよりとした雲から水がこぼれ落ちて、頬を濡らして溢れていく。
指先が冷たくなって体が凍えて感覚が失われていく。
このまま、全部無くなってしまえばいいのに。

「それでも私は貴方が…」

消え入りそうな声は文字通り消えていく。泣き声に呑まれて飲み込まれ。
代わりに誰かがカレンに尋ねてくる。小さな声。透明な声。とっても綺麗な、

望まれたからですか?
頼まれたからですか?
悲しそうに、微笑まれたからですか?




「違うの。」



カレンは答えた。言い訳じみた夢想にさよならを告げるようにはっきりと。
それは、私の覚悟。生きる事は、私の意志。決めたのは私、私が決めた。


貴方を愛する私のために。


最後にカレンは真っ赤な手で真っ白な頬に触れた。
そして、綺麗な人の冷たい唇に優しく口付けた。



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【遅すぎた王子様】



雨が降ってきた。季節はずれの晴天は瞬く間に引っ込んで。
紺色と灰色の空から透明な水が絶え間なく降ってきた。
子供の頃から思っていたけれど、下から見上げた雨は塵のようだ。
全然綺麗じゃないけれど、きっと全てを流すには綺麗すぎて。

「さようなら。」

無は文字通り無に返って、だからスザクは呼ばない。
呼ぶべき名前も呼ばれるべき存在も無いから。
ただ自分の中に巣くっていた憎悪に別れを告げる。

随分長く自分の傍にいて、自分の心を惑わしていた存在の不在。

悲しいですか?
寂しいですか?
それとも、嬉しいですか?

「別に何も。」

あまりに長く自分の中に居すぎたからそこには見るも無惨な穴があいていた。
隙間風が通れば悲しいけれど寂しいけれどそれを認めるにはその存在は醜く。
けれどあれも確かに人で、自分も間違いなく人で。人が人を殺めた事実は残る。
だから不謹慎だと喜ぶことさえ諫めてしまった。結果は何も残らない。

「あぁ、けれど…。」

結果は喜ぶ気にはなれないけれどせめて、この真白な手を喜ぼうか。
間違った存在を正しい過程で消して正しく得た結果のその結果。
綺麗な雨に流されて、この手は既に真っ白だ。



「これで君に触れられる。」



この手で君に触れられる事を、喜ぼう。
スザクは自らの手の甲に、たった一人の人を想って口付けた。



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【茨に愛されたお姫様】



雨が窓を打ち付ける音が聞こえる。風がごうごうと木々を揺らす音が聞こえる。
地面が水を吸収する音が聞こえる。ぶつかって、何処かで何かが壊れる音が聞こえる。
湿った空気が鼻につく。ナナリーはじっと耳をそばだてた。
目が見えなくなってから世界は暗く、歩けなくなってから世界は狭い。

「それでも私は幸せでした。」

見えないなら暗くても良かった。無駄な灯りは眩しいだけだから。
歩けないなら狭くて良かった。知らないところに行けば恐いだけだから。
単純な理由で単純な理屈で、でもそれで充分だった。
生きるために必要なものは全て手の中にあったから。

ナナリーはじっと手を見た。
あの頃よりは大きくなった。でもまだ小さい掌は少し悲しかった。
どのくらい大きくなったかは分からない。比べる人の手も大きくなったから。

「包み込んで放さないようにしたかった。いつだって。」

でもいつも包まれるばかりで指を絡め合わなければほどけてしまう。
それが不安で溜まらなかったと、遂に言う事は叶わなかった。
言わない方が良いと思いながら、言いたいと願い続けていた。


「だってひとりで何処かに行ってしまうから。」


ひとり口付けた指先は、もうあの人には繋がらない。



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【血染めの糸巻きほつれた 運命】



葬儀は無かった。躯も無かった。遺品なんて、もっと無かった。
抜け殻のような部屋で横たわるものが遺品と呼べるならどれだけ幸せでしょう。
でもそこには何もない。あの人の本当を示すものは、何もない。
だから葬儀は無かった。

「お兄様からの、最後のお願いです。」

いつも通りに微笑む少女の言葉。それが遺書ならどれだけ良かったでしょう。
泣きそうな私にもっと泣きたい少女は泣く素振りも見せないから私は結局泣けなかった。
そして訃報を知らせればいつも彼と笑いあっていた人達は素直に涙を流す。
それがどれだけ羨ましかったかさえ私は言えなかった。

知りすぎていた。

一言、表せるとすれば相応しいのはこの言葉。
そして顔を歪ませただけの赤い髪の少女も、きっと私と同じように同じ事を。
知りすぎていて、知っているが故に予感があった。

そして予感を現実にしたくなかった。

でも現実にしてしまった。来てしまった未来に戻れない過去に何も言う事はできなかった。
後で、胸の中にいるあの人にひっそりと涙を流そうと、ミレイはそう胸に誓った。
そして何故葬儀がないのかと尋ねる友人達に、唇に人差し指をあてて微笑んだ。


「空の棺に涙を流すのは、とても残酷な事でしょう。」


笑顔は歪だった。



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【裏切りを告げる預言】



ふて腐れた顔をして憮然としていたかと今度は今度は踊って笑い出す。
慣れたけれど慣れすぎる事も、まして気にならなくなる事もない。
スザクには、業と玉から落ちる振りをする道化師の気持ちなんて分からない。
落ちないならじっとしていればいいのに。

「今度は何ですかロイドさん。」

大破したランスロットに落ち込んで涙を流していた彼は今はとてもご機嫌だ。
上司から呼び出されて帰ってきた時から、正確にはそれからスザクの顔を見てから。
機嫌が良い事は判別できるがその理由も何もかもスザクには分からない。
時々悲しそうに目を細めるから余計だ。

「だから、何なんですかロイドさん。」

着替えをして帰り支度にいそしんでいた自分を彼は放さない。何も言わず目だけで射る。
迷惑な人だった。言いたい事があるならさっさと言って、帰して欲しい。帰りたい。
帰って行きたい。
行きたい所がある。
会いたい人がいるんだ。
早く、一刻も早く会いたいのに。

「君さぁ。」

急きながらボタンを止めていたスザクに、ロイドが漸く声を掛けた。


「最近何かなくさなかった?」


道化師の言葉は解読不能だった。



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【腐敗の時間】



穏やかな部屋だった。穏やかなはずもないのに。
夕焼けが満たす部屋は色ばかりが暖かい。ぼんやりとした橙に赤。
赤が暖かいと、カレンにはもう思えなかった。好きだった、のに。

過去形だった。扉を開いて入ってきた人さえカレンにはもう過去の人だった。
過去だった。どうでもよかった。憎む事も出来たけど無関心でいる事が一番良いと思った。
何でもなく、誰でもなく、色もなければ味もなく形もない。無関心。なんて、素敵。

「…ルルーシュは?」

たった一人しかいない事に訝しみ、そのたった一人がカレンだった事に笑顔が歪んだ。
けれど一瞬でとられた距離に感嘆する。挨拶もなく義理もなく。それで、良かった。
それこそ相応しいと思った。私の大切な人を奪った人に、これから全てを失う人に。
意地悪な気持ちはなかった。そんな価値がなかった。私にとってもう無なのだから。

たった一人を選んで、それ以外に無関心でいる残酷で冷酷で傲慢な人は。


「ルルーシュはいない。」


ここに、とは言わなかった。



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【ほくそえむ魔女】



風が不気味な夜だった。月が綺麗な夜だった。
窓際で沈黙していた人を、C.C.は想って瞼を伏せた。

『これでいいんだ。』

何が良いんだ。どう良いんだ。お前は諦めたのか?

『違う。』

違うか。そうか。ではなんだ。達観したなどと巫山戯た事を。

『言うつもりはない。ただ…』

C.C.は瞼を開けた。ゆっくりと。飛び込んできた光に頭が揺さぶられる。
飛び込んできた光景に笑いが止まらない。眼下には何処までも暗い地面。


「これがお前の願いか?ルルーシュ。」


おめでとう、と言ってやるのが共犯者の最後の情けか。



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【赤い子供】



ふと見下げれば地面が真っ赤だった。ふと気付けば空は真っ赤だった。
目の前を見れば鏡があった。鏡も真っ赤で、そこに自分はいなかった。
映らない事が不安で仕方なく、一心不乱に鏡を拭いた。

「・・・・・・・・なん・・・で。」

声が掠れた。喉が干上がり、その分目の奥が痛くなった。
何かが溢れ出そうな感覚がして、顔が熱く滾っていく。
それと同時にすっと冷たいものが頭上から落ちてきた。
落ちて落ちて、それは何処に。

「ルルー、シュ・・は…・・・・?」

繰り返す質問。返ってくるのは同じ答え。
耳を塞ぎたかったけれど手足はだれて言う事は聞かない。
聞くしかなくて、嘘だと言えなくて、受け入れるしかなくて。
それ以上どうすればいいのか全く分からない。

会いたくて触れたくて触れたくて、愛してると言いたい。


「ルルーシュ…。」


そんな、愛しい人はもう何処にもいなかった。



Q.赤を取り除けば綺麗になった鏡。さて、鏡の中の自分の姿は。
A.もうまっかっか!(だって拭くものが自分しかなかったんだ)



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【どうかそのまま私を切り裂いてください】



真実なんて知らない方が良かった。知らなければ愚かでいられた。
愚かでいられた。無知な愚かで。それはどこまでも愚かで救いようがない。
でもたった一人、自分だけが救われていた。

傷だらけのテーブルの上にばらばらになった紙切れと弾けたガラス。
羽が吹き出た枕にへこんだ壁に破れたシーツ。壊れ物ばかりが部屋中に横たわる。
その中でも一番の壊れ物は、自分。

「なん・・・でっ‥!!!」

テーブルの上にナイフが突き刺さっていた。その横に手首が並んでいた。
天井から紐がぶら下がっていた。輪っかは床に落ちていた。
変な色の錠剤の瓶が置いてあった。今は全部ゴミ箱の中だった。
浴室に水が張ってあった。いつの間にか栓が抜かれていた。
窓は開けっ放しでカーテンが揺れていた。開いていただけだった。
冷蔵庫は空っぽにしておいた。けれど何故か水道の蛇口が捻ってある。
傷だらけの手首に傷だらけの首。掻きむしった痕と絞めた痕だけ、それだけが残ってる。

「死にたい…のにっ‥!!」

君がいない。君だけにいて欲しかった。君だけを愛していた。君以外いらなかった。
君が、いらないわけじゃなかった。でも結果、君を殺したその手で君を抱きしめようとしていた自分。

「助けて…。」

助けて。殺して。死なせて。それで救われる。簡単に。それなのに、どうして死ねない。
死のうとしているのに。君の傍にいきたいから。ここにいても仕方ない、のに。


「ルルーシュ、助けてっ…!」


君の傍に逝かせて。



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【さようなら わたしが恋したあなたさようならわたしが夢見たあなた】



ありがとうスザク。
大切な人。初めての友達。憧れた人。守ってくれた人。優しい人。
大事な人。二番目に愛した人。強い人。守りたい人。初めて、恋した人。

俺とお前の道は交わらなくて、何処までも平行線で分かっていたけれど悲しかった。
お前に恨まれて憎まれて非難されて、隠れて頭をもたげる事しかできなかった自分。
自業自得と分かっていながらお前の前では笑う事しかできない自分。
泣く理由も悲しむ理由も苦しむ理由もないから笑う事しかできない。
泣けば少しは慰めてくれただろう。でも、それを俺は望まなかった。

傍にいて欲しかったから手を差し伸べた。手を差し出して繋ぎ返される事を夢見た。
所詮夢でした。最初から分かっていたのかも知れないけれど、夢見た事を間違いだとは思わない。
ただ傍にいて欲しいという自分の中に残る純粋な願いに、俺は感謝さえしている。
お前は俺がたった一人、隣に立って欲しいと願った特別な人。

けれど叶わなかった。
守る事も守られる事も叶わず傷つけ合いさえした。
お前の強さも優しさを時には恨みもした。憧れていたのに。
現実は想いを裏切って、残酷なばかりでした。

だから止めました。
お前を振り向かせる事を。俺は結局最後のカードまで捲ってしまったから。
もうこれ以上できる事は残されていない。だから待つ事に決めた。
いつかお前が自分の意志で俺を見た時、その時はまたここで待っていよう。

これ以上俺からは何も望みません。
俺が貴方に差し出した最後のカード。
俺の願いは其処に全て書いてあるから。
だからどうか見てください。
その時まで、俺は待っています。
ずっとここで待っています。
また昔のように、真っ正面から向き合える日が来るのを。

待っています。


この命がある限り。



end
選択式御題