※ばっちり妊娠ネタです。
※しかもギャグです。
※ご注意下さい!




【青色の哀歓】






「この世に母親ほど強い生き物はいないのなら、俺は母親になりたい。」

いつになく真剣な顔をして部屋に入るなりそう言ったルルーシュに、不覚にもC.C.はピザを取りこぼした。上手い具合に箱が下にあったのでルルーシュに文句を言うのだけは逃れる事ができたが、再度見上げたルルーシュはC.C.の失敗とは別の理由で渋い顔をしていた。その顔に浮かぶ悲愴な程の決意に、C.C.は内心で90度ほど首を傾げる。はてさて、それはどこかで過去に聞いたことがある台詞だったが。

「いきなりなんだ?」
「俺は母親になることにした。」
「つまりは子供ができたということだな。」

指摘してやれば何故かぎくりと及び腰になるルルーシュ。訳が分からないとその様を投げやりに見つめていたが目が段々と潤んでくる。どうやら未だ事実として脳が認識しても心が受け入れるには及ばなかったらしい。他人からずばりと声に出して言われて、ルルーシュの心の弱い部分が崩れたんだな、とC.C.は分析した。(しておくに留めた)

「父親は、」
「みなまで言うなっ!!!」
「馬鹿か、お前は。」

相手はお前の幼なじみで七年越しの片思いの相手で日本人のくせにブリタニアの職業軍人で人当たりが良い笑顔に見せかけて全くもって他人の機敏に投げやりな天然俺様男だろう、と淡々とそれらしい男の前につく形容詞(あくまでのC.C.の主観による)を並べ立ててみせれば、ルルーシュが憤慨して「スザクを悪く言うな!」と言った。どうやら相当頭が混乱しているらしいので、自分で言ってるだろう、と指摘するのは止めておいた。虐めるのは楽しいが、さすがに泣かれるのは困る。面倒だ。

「で、どうするんだ?」
「どうするも何もまだお腹が出ていないから暫くは普通に学生生活しておくがあと二ヶ月もしたら流石に誤魔化しは効かない。死んだと見せかけて黒の騎士団の活動に専念しようと思ったがナナリーと離れるのは寂しいし、ナナリーにだけには事情を説明して何処か田舎に隠居して子供を産んで育てて家族三人で平和に暮らす事にした。」
「馬鹿だろう、お前…。」

今の状況と今後の人生計画を冷静に分析しているようで全く破綻しているルルーシュにC.C.は本日三度目のツッコミを入れた。混乱すると何処までも頭が動かない(というよりは動きすぎて自分で整理が出来ない)ルルーシュは、落ち着くまで放っておいた方がいい。でないと折角のピザも冷めてしまうと早々にピザに興味を移したC.C.、だがその視界の端で鬱々と沈むルルーシュがいるので全く味に専念できない。

「…父親はどうするんだ。」

そして絆されるあたり自分も相当ルルーシュに弱いと思う。

「言わないで行く。」
「追いかけられても知らないぞ。」

むしろその様が脳裏にはっきりと映像化できて笑うに笑えない。そんな風に何も言わずに消えたら絶対にあの男は俺ルールを発動してルルーシュを二度と離れられないような目に遭わせるのだ。今も最早離れられるかは随分と微妙なところだが。

「追いかけてくるはず無いだろ…。」

だがルルーシュはそんな可能性は全く考えていないらしい。むしろどんどん思考がマイナス方向に突っ走っていっているのが背後の暗いオーラで分かる。

「スザクはもうユフィの騎士なんだ。騎士は主と一心同体。常に一緒にいて、人生を共にしなければいけない。その様はまさに人生の伴侶!私に構っている暇なんてあるわけない。だから絶対追いかけてこないんだっ。追いかけてくるはずないんだ!こんな貧乳で女の魅力なんてまるでない、嫌にプライドだけ高くて頭でっかちで可愛げなんて全くない女なんて!大体『急に妊娠したんだ』、なんて告げてみろ。絶対戸惑った顔されるんだ。けどスザクは優しいからそんな私を無理に受け入れて、受け入れてそれからっ、うっ、ふぅえ、それ…からあっ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ルルーシュ、お前妊娠何ヶ月目だ?」

途中から泣きに入ったルルーシュに尋ねると、鼻声で「三ヶ月目…。」と返ってきた。ぼろぼろと溢れ出てきた涙を服の裾で必死に拭うルルーシュは、あの男に言わせれば『魅力がないなんてとんでもない!』というほど壮絶に色っぽいが本人全く分かっちゃいない。というか欠点を補って有り余るほどの魅力があることをいい加減知った方が良い。欠点さえ魅力と捉えているあの男の前で、その認識は生命に危険を犯す。

「取り敢えずこれでも食べてろ。」

だが妊娠中の情緒不安定期に突入しているらしいルルーシュに恐らく今は何を言ったところで無駄だろう。応急処置としてレモン(ピザと一緒に頼んだ唐揚げに付いていた)を渡し食べさせると意外と素直に食らいついた。ぬるい、と文句を言っているが、それは流す。

「父親に言わないで行くのか?」
「言わないで行く…。」
「本当にそれでいいのか?」
「それでいい…。」

こくりこくりと頷きながら答えるルルーシュは本当に分かっているのかどうなのか。

「絶対追いかけられるからな。」

それが精一杯の忠告だったが、結局は聞く耳持たなかったルルーシュに、最早どうなっても責任はとれん、とC.C.は天を仰いだ。





そしてC.C.の懸念通り、捨てた夫に追いかけられた失踪妻ががっちりと捕獲されるのはこの一年後のことであった。









end