【白色の憧憬】






例えば目の前にあるこの白を真っ赤に染める。
それは一体どれほどの恍惚を自分にもたらすか、想像さえ出来ないだろう。



日本の夏は暑い。気温だけをとって言うなら赤道直下の国の方がずっと暑いに決まっている。けれど島国なせいか湿気が尋常ではない。本来ならからりと渇き肌を焼く熱さは、ことここにおいてはじんわりと肌にまとわりつく鬱陶しさをもっていた。そんな日本、現在エリア11は今年になって記録的な猛暑に襲われていた。昼の平均気温38度超えは最早珍しくなく、連日連夜の猛暑に人々の精神力は限界点に達していた。日本人であれば数年に一回は訪れる猛暑に耐性もあるだろう。だが白人であるブリタニア人にこの熱さは生半可な試練ではない。結局フル稼働される羽目になった冷房空調の類は人より早く音を上げることになり、ここアッシュフォード学園は現在室内でありながら夏の暑さをそのまま肌で感じる環境と化した。そしてその被害に一等あったのは、夏休みでありながらクラブ員が活動をするここクラブハウスであった。

(暑い…。)

口に出せば物が飛んでくるから頭の中で呟くに留める。何度呟いたところで一向に涼しくなることはない無駄極まりない呪文。スザクはじんわりと肌にしみいる熱さに、自分の思考力が低下していくのを刻一刻と感じていた。ぼんやりと虚ろになっていく視界には、白しか映らない。涼やかな色だけが唯一の癒しとなっている室内で、スザクは黙々と本を読み続ける人に感嘆の念を抱いた。よくこの状況下で本を読む気になるものだ。小難しい単語の羅列は目眩しか引き起こさない。常時であっても目に入れたくないものを淀みなく読み続ける人は、その行為を一種の精神統一及び気晴らしの類にしているのかもしれない。段々と鈍くなっていく頭と暑さに耐えかねて、スザクは遂に口を開いてしまった。

「ルルーシュ。暑い…。」
「そうか、俺はお前のせいでもっと暑いよ。というか暑苦しい。」

その一瞬風が吹き抜けて窓際のカーテンを揺らす。氷のように冷たい返答に体感温度が下がったような気がした。が所詮気がしただけで暑さに変わりはなくスザクは唸って突っ伏した。真下にある柔らかな感触に頬を擦りつけ、僅かに香ってくる甘い香りに酔いしれる。茶色のくるくるとした癖毛が白い布の上に散らばった。自分を癒す白い色に、瞼を閉じて体重を預ければルルーシュが顔を顰めて上体を起こした。そして左腕で自分の上に覆い被さる不埒者の頭を叩く。けれど覆い被さる、正しくは抱きつくスザクは尚一層腕に力を込めるだけで離れる気配は全くなかった。

「いい加減に離れろ。暑苦しい。」
「そうかなぁ。ルルーシュ、今の気温何度か分かってる?40℃だよ?40℃!人間の体温は36℃前後だからそれならこうやってくっついていた方が絶対涼しいに決まってる。しかも気持ちいい。」
「その整合性の欠片もない屁理屈を引っ込めてさっさと俺の上から退け!」
「絶対、いやだね。」

まるで亀の子のようにベッドに横たわるルルーシュの背に抱きついていたスザクは一言の元その提案を掃き捨てる。その意地を張ったような声音に何かを感じとったルルーシュが身を捩ったと同時に、スザクはお腹の方に腕を回して強く拘束した。左腕で折れそうな程細い腰を捉え、右手で柔らかく張りのある乳房を掴む。指に力を込めればくにゃりと形が変わり、ルルーシュが顔を真っ赤に染め上げた。

「あっ…あっ、やだ///!スザク!」
「折角俺と二人っきりなのに、本ばっかり読んで。おまけに文句言うなら帰れ、なんて。ねぇ俺のこと何だと思ってる?」
「スザク!すざっ、止めろ!」
「やだ。」

自分でも子供っぽいと思うが、口から出てしまった言葉を撤回なんてできはしない。それに今のこの状況の責任の半分はルルーシュにあるとスザクは思っている。それが意地を張った末の責任のなすりつけだって構わない。そうとしてか思えないことが重要なのだ。緩急をつけて胸を揉めば、ルルーシュをその艶のある声を漏らさないように必死で歯を食いしばっていた。シーツの上に散らばる黒髪と、その合間でぎゅっと閉じられた紫の瞳。赤みを帯びた頬の色彩が印象的で、ルルーシュが耐える様はこの上もなく劣情を駆り立てる。震えて静止を求める小さな掌が細く角張ったスザクの手の甲に重ねられれば、その白い肌の色が引き立った。服に包まれた脚で素肌のさらけ出された脚を絡め取れば、ルルーシュが漸く瞼を上げる。微かに開かれた瞼の中では、水に濡れた葡萄のように綺麗な瞳があった。

(絶対誘ってる…。)

逃れられないと知って必死に抵抗する様だとか、快楽に濡れ行く表情だとか。そんなものでは無くもっと根本的なものでスザクは誘われているとしか思えない。例え夏の暑さに弱いルルーシュがそうする事は自然だと、何処かで分かっていてもその警戒心のなさは疑わなければならない。自分の下で必死に藻掻くルルーシュは白いキャミソールと白い短パン、それも太股さえ隠れないような短さの物しか身につけてはいないのだ。もっといえば確実にブラはつけていない。親指で先をきゅっと押し潰せば確かな反応が返ってくる。布一枚しか隔てていない感触に先ほどとは別の意味で目眩がした。仮にも恋人を部屋に入れておいて、着替えもしない。

(それに、この色もいけない。)

普段は黒など暗い色彩の物を好んで身につけるくせに、今日に限って真っ白。せめて目に涼しいようにとこの色を選んだのは分かる。けれど目の当たりにしたスザクはどうすればいいというのだろう。一点の汚れもないような眩しいばかりの色彩を目の当たりにしたスザクは。長くすらりと伸びた手足は惜しみなく空気に晒され、触れればしっかりと体温を感じる事が出来る。無防備な様に色に、どうあっても汚したいと思ってしまう。実に単純な衝動だった。スザク、スザクと繰り返し呼ばれる自分の名も衝動を駆り立てる材料にしかならないなんて。

(暑さで頭でもやられたかな…?)

半分横抱きになっていた体勢を変えてスザクは再度ルルーシュの背中にのし掛かるようにして体を押さえ込んだ。指が回るほど細い手首は、いっそ折ってしまいたいとさえ思う。片腕をシーツの上に縫い止めて、右手で絶え間なく快楽を与えることでほんの些細な抵抗さえ封じてしまえば時折体が緊張でびくりと揺れるだけになる。口でキャミソールの裾を噛み、まくり上げれば外気に触れた肌にじんわりと汗が滲んでいた。それが暑さのせいかなんて分からないけれど、微かに火照った肌が赤くなっているのは確実に暑さのせいなんかじゃなかった。肩胛骨から腰にかけての背骨のラインを、たっぷりと唾液をのせた舌でなぞってやれば赤みが増す。満足げに微笑んで、スザクは幾つもキスマークを刻み込んでいった。面白いように痕がついていく白い背中。好きなだけつけた後、スザクは最後に黒い髪に隠れた首筋に痕をつける。それは仕上げではなく、開始の合図だった。一度止んだ行為に、ルルーシュは漸くスザクを見ることが出来た。そうして見たスザクの顔は、先ほど自分の背に抱きつき子供のように文句を言っていた時と同じ笑顔で。


「ねぇ、しよう?」


暑いなら二人でもっと熱くなってしまえばいい、という言葉が冗談にしか聞こえなかった。









end