【あんな表情、知らない・後】






「作者の名前は枢木朱雀。」

現在25歳。駆け出しの新進気鋭画家で二年程前の学生時代にはありとあらゆる展覧会に出展し、賞を総なめ、ここ最近はなりを潜めていたが今回の出品でまたも特選。日本画が専門で緻密で繊細な色遣いに人気がある。どこか現実離れした空気を持つ作品を描くことが多い。静物画と風景画が主で、人物画は今回のこの作品が初めて。

「というわけ。分かった?」
「はぁ、まぁ…よく。」

展覧会上から出た後ほぼ放心状態だったルルーシュを見てミレイはその場で全員解散、そしてルルーシュの腕をひっぱると展覧会場となっていた美術館の資料室へと誘導した。本来なら関係者以外立ち入り禁止のそこはスポンサー令嬢という名前で押した。さすがに美術館が所有するだけに手薄になりがちな現代作家の資料は充実している。そして職員に頼んで『枢木朱雀』関連の書籍を出してきて貰えば、その多さに驚いた。殆どは過去開催された主立った展覧会のガイドブックだったが、量が半端でない上に殆どが何かしらの賞を戴いている。ここでルルーシュが、まだ若いのに…、と若者らしからぬコメントを抱いたことは伏せておこう。

「本当は後日お爺様に頼んでルルちゃんだけに見せようと思ってたのよ。だけどその前にシャーリーがチケットを持って来ちゃって。」
「それで受験が忙しいにもかかわらず付いてきたんですね。今回ばかりは、本当に感謝しますよ。」
「少しは落ち着いたかしら?」
「えぇ。少しは、落ち着きました。」

といってもまだかなり動揺が激しい。いきなりあんなものを見せられたのだから当然だろうがルルーシュは気持ちの落ち着けどころを見つけられず視線を泳がしていた。仕方なく手元の資料に目を通すしかなくて、そして絵を見つめるたびにまた奇妙な感覚に引き摺られる。どれも手放しで素晴らしい、と言えた。素人には難しく感じるかもしれないが作品にそれといった評価をつけることは、実は意外と簡単だったりする。一目見れば、分かるのだ。それが他と違う、何かを持っていると言うことが。枢木朱雀は確かにその何かを持っている画家だった。それにしても彼は。

「本当に人物画は描かないんですね。」
「そっ。彼はねぇ、本当に徹底して人物画は描かないわ。まぁ別に拘りがあることが珍しいわけじゃないけど、そんな彼がこんな作品を世に出してきたってことは珍しいわよね。ちなみに他にも市場に出回っているのをチェックしてみたけど、人物画はそれ一枚よ。」
「その情報網はさすがと言うか何というか…。以前から彼のことは知っていたんですか?」
「まー、家の仕事柄めぼしい人にはチェックいれてるけど。彼に詳しかったのは個人的に付き合っている画商が彼の作品を直接卸している人だったからよ。それだけと言えばそれだけだから詳しいかと言われると微妙よ。」
「その画商とは…。」
「大丈夫。連絡なら入れといたわ。」

話が早くて助かる。ルルーシュは資料を閉じると、緊張を解すように背伸びした。そして先ほどの絵を脳裏に思い浮かべる。あれが自分だと言うことは第三者の目にも明らかだ。あの絵を見た後のシャーリーとリヴァルの動揺ぶりが何よりそれを証明しているだろう。だから今更あれは本当に自分か、と問いただすつもりはないし、そういった話は本人に直接聞くのが良い。

「ねぇねぇ。絵のモデルになった感想はどう?」
「そんな目を輝かせないでください。感想も何も…、今は言葉がありませんよ。それよりも何で俺が自分でモデルをした作品だと思わなかったんですか?」
「だってぇ、ルルちゃん恥ずかしがり屋だから自分の絵が飾られている展覧会にあんなに楽しそうに行ったりしないもの。ぜぇったい一人でこっそり行くわ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな。」

誰だって自分の絵がでかく飾られているのは恥ずかしいものだと思うが、自分の行動パターンを当てられるのは悔しかったので黙ることにした。ミレイは楽しそうに微妙な表情をするルルーシュの頬をつつく。折角の美人が台無しよ、と文句なしの美人に言われてルルーシュは溜め息をついた。

「あらぁ?悩ましげな溜め息。」
「誰のせいですか。誰の。」
「うふふ。ルルーシュにそんな顔して溜め息つかれたら、大抵の人はどきっとしちゃうかもね。」
「何ですか、それ。」
「貴方の憂い顔は特別だってこと。」

よいしょ、とテーブルに腰掛けるとミレイは遠くを見つめて微笑んだ。短いスカートの中身が危うく見えそうになるが、ミレイは気にせず足をぶらぶらと揺らす。その隣でルルーシュはミレイの行動を見守っていた。顔には分からない、とはっきり書かれてあるからミレイは幼なじみを安心させるために、はっきりと告げることにした。

「あなたのあの絵、私一目見た時ね。」

憂い顔でこちらを見つめるルルーシュを初めて見た時。


「あなたに恋しそうになったわ。」


自分でも思った感想を述べられて、ルルーシュは長い溜め息をついた。









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