【裏話0話 出会いに必然】






「ツラ貸せよ。」

まさかこの世に生を受けて十年でそんな言葉を聞くとは思いも寄らなかった。せめて中学生になるまで待って欲しいとか、できればまた今度などという戯れ言は勿論聞き入れて貰えない。何しろそんな台詞を言う人間にそのような聞く耳持つ構えなどあるはずもない。
そんなわけで枢木朱雀は齢十歳、芸能生活一年目にして先輩からのお呼び出しという洗礼を受けた。



ばきっ!

殴られたらやっぱり痛い。どさりと地面に後頭部をうちつけ、二重の痛みでのたうち回る朱雀を助けてくれる者は残念ながらこの場にいない。人気のないところに呼ばれたのだから当然だ。見事に決まった右ストレート。それはフォームや力加減から、空手を嗜んでいる手前分かることだが全く素人の手ではなかった。

「安心しろ。手加減しておいた。」

これで手加減してるんだ、と思いつつ痛みに鼻を押さえる朱雀はうるうると涙が滲み出した両目で自分を殴った相手を見上げた。白雪姫のように黒い髪に白い肌に赤い唇。同じ年なのに一見女の子と見間違うほど可憐な容姿をしたその子はとてつもなく

「素人のクセに手ぇ抜いて演技してんじゃねぇよ。やるならキッチリ締めやがれ!」

とてつもなく口が悪かった。
あっ、ゴメンなさいと謝るしかないこの状況。朱雀は野性の本能で土下座という日本人的最上級謝罪法を選択した。その選択は幸をそうしたのか否か。よく分からないが降ってきた足にぐりぐりと頭を踏みつけられ朱雀は新しい世界への扉へ招待されることだけには成功した。結構気持ちいい。

ほぼ二十分ほど前、脚本の都合上ぼこぼこにのした『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』はその後天使の微笑みで不良も恐れおののくドスのきいた声アンド囁きを駆使し枢木朱雀を招集、追ってその場に辿り着いた彼を一秒で地に沈めた。その鮮やかな手腕に朱雀はこの世に生を受けて初めて予感というものを感じた。彼は絶対将来大物になる。

今日は何だか初体験をしてばかりだな、と考えに耽る朱雀の頭に容赦なく足裏マッサージは続く。

「ハンパに武道をカジったぐらいで調子にのりやがって。型決まってんだから身入れて演技すりゃいいんだよ。そうすりゃちっとはマシになるもんなのなのに!殴られりゃイ・タ・イ・んだよ!」

言い方はとてつもなく悪いがこれはもしかして褒められているのだろうか、と朱雀は思った。要約すると基礎は出来てるんだから自然に演技すれば問題なし、ということだろうかと朱雀は国語5の頭で考えた。親にも褒められたが意外に理解力はいい。

「あと、何だあの目はっ!?良いとこの坊ちゃんはこれだから困るんだ。まともに人も睨んだことねーやつが。感情がたりねーんだよ。もっと本読むなり何なりして勉強しろ!」

もっと素直に受け止めればこれはアドバイスそのものに聞こえる。芸歴は五年も上の先輩は、もしや後輩にアドバイスをしてくれているのだろうか。やり方はもの凄いが。しかしだとするととても嬉しい。少々引っ込み思案で中々芸能友達のいない朱雀に、こんなに真っ正面からぶつかってきてくれた人はいない。朱雀は何となくこの人がどんな顔をしているのか見たくて、未だにのせられている足首を掴んだ。予想通り、とても細い足首だった。急に反応が返ってきて「うおっ!」と体勢を崩し駆けた人の足首をしっかり掴みつつ、朱雀は顔を上げた。そしてにっこりと微笑んだ。

「・・・・なんだお前。」

踏まれて詰られているにも関わらず微笑んで。この時もの凄い不審人物を見る眼で見られていた事を喜び一杯で微笑んでいた朱雀は知るよしもない。とりあえず自分の気持ちをどうにか伝えたくて、朱雀はストレートに愛を込めて叫んでみた。その方法がどれだけこの場にそぐわなかったかなど、説明するまでもない。


「ありがとう!!!」


その感謝の言葉に身の毛をよだたせたルルから顔面へキックが飛んできたのは真理だった。









end